授業を抜け出して食べていた「一杯のラーメン」が癒し

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コロラトゥーラ・ソプラノを極めるべく、昭和期の世界的なソプラノ歌手、大谷洌子(おおたに・きよこ)さんのレッスンを受けることにしたトットちゃんでしたが、そもそもコロラトゥーラが出てくるオペラの演目は非常に限られているそう。トットちゃんは「コロラトゥーラ・ソプラノを極める」という決意がどうにも空回りしていることを感じ始めたといいます。

授業になかなか身が入らず、教室の窓から抜け出して池袋まで映画を観に行ったり、チェロが専門の学生に一日だけチェロを借りてみるも後悔したり……。揺るぎないと思われた夢に段々ともやがかかり、出口の見えない迷路に入ってしまったトットちゃん。実はこの時期、意外なあるものに癒されていたことも伝えています。
 


悩み多き音楽学校時代に、トットが癒されていたもの。それはなにかというと、昼休みに、授業のあとに、そしてときには授業を抜け出して食べる一杯のラーメンだった。

トットがラーメンの味に目覚めたのは、東洋音楽学校に通うようになってからだったけど、お気に入りのラーメン屋さんが、学校のすぐ近くにあった。

お店の名前は「宝軒」。いわゆる町中華料理屋さんで、ラーメンは一杯三十五円。手打ちの麵が自慢の店で、こんなにおいしいものは食べたことがない、と思うくらいのおいしさだった!

 


進路に悩む多くの若者と同じように、この先どんな道を歩めばいいのか? 自分の才能はどこにあるのか? を見出せずにいたトットちゃん。その後、偶然にもNHK専属の東京放送劇団の俳優募集広告を見かけたトットちゃんは、6000人の応募者の中から見事13人のうちの一人として合格し、女優としての人生を歩み始めます……が、この物語の続きはぜひ本でお楽しみくださいね!

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ちなみに、現在放送中のNHK朝ドラ『ブギウギ』では、趣里さん演じる福来スズ子が「買物ブギー」で圧巻のステージを披露しました。東京放送劇団に入団したトットちゃんは、笠置シヅ子さんが「買物ブギー」を歌う番組で、ガヤガヤ(通行人のようなその他大勢の役)として出演したのだとか。そのときの「失敗談」も、天真爛漫なトットちゃんらしいクスリと笑える描写で描かれています。『ブギウギ』であの賑やかな舞台演出を見た方なら、トットちゃんの行動に思わず共感するかもしれません。

 


第1回「常識に囚われないパパと、魔法使いのようなママ。“トットちゃん”がきらきらした瞳で見つめた両親の姿」>>

第2回「【続 窓際のトットちゃん】隙間風が吹く“リンゴ小屋”を素敵にリフォーム!疎開で知ったママの「環境適応力」」>>

 

黒柳徹子(くろやなぎてつこ)さん
東京都生まれ。俳優、司会者、エッセイスト。東洋音楽学校(現・東京音楽大学)声学科卒業後、NHK専属のテレビ女優第1号として活躍する。『徹子の部屋』(1976年2月~、テレビ朝日)の放送は1万2000回を超え、同一司会者によるテレビ番組の最多放送世界記録を更新中。1981年に刊行された『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)は、国内で800万部、世界で2500万部を超える空前のベストセラーに。1984年よりユニセフ親善大使となり、のべ39ヵ国を訪問し、飢餓、戦争、病気などで苦しむ子どもたちを支える活動を続けている。おもな著書に『トットチャンネル』(新潮文庫)、『チャックより愛をこめて』(文春文庫)、『トットちゃんとトットちゃんたち』(講談社)などがある。

 

 

『続 窓ぎわのトットちゃん』
著者:黒柳徹子 講談社 1650円(税込)

国民的ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』、42年ぶりの待望の続編。「トモエ学園」のその後、トットちゃんはどんな青春を過ごしたのか? トットちゃんと家族、そして周りの人たちは、戦争や疎開をどう見つめたのか——。泣いて、笑って、感動して、心を動かすことをやめないトットちゃんを通して、感動をもらえる一冊です。


構成/金澤英恵