歌詞でキム・カーダシアン&カニエ・ウェストをディスり、元彼ジェイク・ギレンホールと「絶対にヨリを戻さない」決意表明


テイラーの魅力の一つは、声に変な圧がないところ。歌唱力を見せつけたい、というエゴが感じられない、ただ聞いていて気持ちが良い歌声です。温かみも感じられます。エゴを乗せないから歌っていてもエネルギーを消耗せず、疲労感が軽いのかもしれません。

『evermore』の「willow」は神秘的な森の中のような演出でした。黒っぽいマントをかぶった人々が光る球体(オーブ)を手に集まって円陣を組んだりしています。実はこのシーン、一部の人の間で「魔術の儀式」と言われて警戒されているようです。アメリカのある神父は、このシーンが観客を霊的に危険にさらす可能性があると警告を発しています。TikTokには「#taylorswiftwitchcraft」というハッシュタグまで登場し、「『willow』のパフォーマンス中に何万人もの観衆を魔術の道に入門させている」「悪魔を召還している」と動画でメッセージを発信する若い女性もいました。たしかに何か召還されてきそうな雰囲気でしたが、テイラーのような才能と体力が得られるのなら魔術の道も悪くないです。

SNS等で一部の人から「魔術の儀式」と言われて警戒されている「willow」。(撮影/辛酸なめ子)

それよりも不穏だったのは、ところどころに現れる蛇の映像。前回のツアーでも蛇が頻出していました。今回は、『Reputation』コーナーあたりに出てきましたが、キム・カーダシアン&カニエ・ウェストとのバトルがあった時に、蛇呼ばわりされたことにちなんでいるようです。舌を出したり、不気味な音を立てたりしながら、巨大な蛇の映像が花道やステージを這い回っていました。「Look What You Made Me Do」はキム・カーダシアン&カニエ・ウェストとのバトルをきっかけに生まれた報復ソングと言われていて、歌詞の中でさりげなくカニエのステージをディスりつつ、自分が生まれ変わって強くなったことを示唆するセリフもあり、聴いていて高揚する名曲。下からせり上がったステージの上で、あの頃よりたくましくなったテイラーが歌っていました。

ファンには優しいけれど、嫌がらせしてくる敵や元カレには厳しいテイラー。彼女は決して負けることがありません。アルバムの音源の権利が他人の手に渡ってしまったら、再録音して曲の権利を取り戻した、という一件もありました。

イラスト/辛酸なめ子

『RED』コーナーで盛り上がったのは、日本で有名な「テラスハウス」の曲、「We Are Never Ever Getting Back Together」。10歳年上の元カレ、ジェイク・ギレンホールへの「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」という思いが込められています。曲の中で「Never!」と言うところを、ダンサーが「ありえない!」と叫んで笑いが起こっていました。世界中でチケット完売のテイラーのコンサートですが、行きたくても行けないのは元カレたちです。

ただ、ケイティ・ペリーはかつてテイラーと険悪だった時代に、自分のことを書いたと言われる「Bad Blood」が流れると、コンサート会場で歌い踊っていたそうです。ポップスター同士メンタルが強すぎです。

 


幸せだと思ったら、出会いや別れがあり、試練が訪れて、また復活して……と、人生そのもののような3時間20分でした


テイラーは光り輝くスターでありながらダークな一面をときどき見せるのも魅力的です。ステージにヒビが入って割れる演出や、家が燃え盛る映像など、ときどき不吉なイメージが流れてきて、ピアノやギターを弾きながら歌う癒しのコーナーとのギャップが大きいです。陰謀論好きとしては、イルミナティにダークな演出を支持されているのかも、と妄想してしまいます。多幸感あふれる花畑や、ふわふわと浮かぶ雲、古き良きアメリカのパーティーシーンなど、美しい演出も多いです。幸せだと思ったら、出会いや別れがあり、試練が訪れて、また復活して……と、人生そのもののような3時間20分でした。

撮影/辛酸なめ子

一般のファンだけでなく、陰謀論者や悪魔崇拝者にも全方位にサービス精神旺盛なテイラー。善悪や光と闇にわかれる二元論ではなく、光と闇のエネルギーを併せ持った存在です。最後の曲、「karma」にはテイラーの魂の進化への自負が現れているようでした。「カルマは私の彼氏」「カルマは猫」「カルマを考えるとリラックス」なんて余裕で歌えるのはテイラーしかいません。カルマも超越しています。

何度もピークが訪れ、永遠に終わらないかと思われた公演。ただ座って聴いていただけなのに足が攣ってしまいましたが、テイラーは東京公演で4日間も連続して行なうというのだから驚異的です。公演後、東京のファンに向けた「X」のメッセージには「またステージで仲間のパフォーマーやバンドとはしゃぎ回れるのがとても嬉しかったです」などと発信。このような大仕事を「はしゃぎ回る」感覚でこなしていたとは……。また、テイラーに生きる術を教えてもらったようです。


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辛酸なめ子、アラフィフの壁を乗り越えるとは?
「アラフィフの壁」を無理なく、軽やかに越え続ける漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが、自らのアンテナに引っかかった事象を紐解く連載です。今回はアメリカ大統領選にも影響を及ぼすテイラー・スウィフトの来日公演(オークションサイトで45000円でチケットをゲット!)をレポート。長年テイラーをウォッチしてきたなめ子さんならではの深い考察とともにお楽しみください。

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構成/露木桃子
 

 
 
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