全てを投げ出しそうになった母親の行為とは?

 

資金問題をクリアしても課題はまだ山積みでした。特に大きくのしかかってきたのが、両親が亡くなった後の遺産相続。「心配しないで。ちゃんとした手書きの遺言書を自分たちで作っているから」という母親の言葉に危険を察知した井形さんは、その手書きの遺言書を司法書士の先生に見てもらいますが、案の定「これは使えません。ちゃんと作り直した方がいいでしょうね」と言われてしまうのでした。
 

 


「どこの家も似たようなものです。子どもの一人が主導権をとって、正式な遺言書を書くよう親を説得しないと、なかなか進まないんですよ」

その司法書士のアドバイスに従い、井形さんは母親と一緒に公正遺言書を作ることにします。その前段階として、ゴルフ会員権や通帳などを家中からかき集めて資産目録を作ろうとしますが、そこにも問題が生じてしまいます。

「母は昔の書類や古い通帳をひっくり返してはため息をついている。『私も手伝うよ』と書類に手を伸ばすや、『ダメ! こういうものは子どもが見るものじゃないの』と、突然𠮟責された」

井形さんは親切心を踏みにじる母親の行為に対し、「まさか私のことを財産狙いだなんて思ってないわよね」と詰め寄ってしまいます。その時の井形さんは心底怒りに駆られていました。

「やれやれである。マンションの共同購入まで加担しているのに、資産の開示でいきなり線引き? 机いっぱいに広がった書類は、おそらくずっと整理しないまま、箱に詰め込まれ放置されていたものだ。イレギュラーなことは所帯経営を任された母でも手に負えない。最後は分からないからあなたがやってと頼んでくるくせにと、怒りでもう全てを投げ出しそうになった」