これはあくまで私の経験からくることですが、私は夫を病気で亡くした後、しばらくして「涙には違いがある」ということを実感しました。green62さんはお母さまのことを思い、いまだに涙を流す日がしょっちゅうある、と書かれていらっしゃいましたが、私も同じです。けれども、その涙には違いがあると、私には感じられるのです。冷たくて悲しい涙は、気持ちが過去に戻って「ああ、夫はもういないのだ」と感じるときに流れる涙です。過去のことを思い出すだけであっても、その涙はとても辛い。でも一方で、「今、夫は私のことを心配してくれているな」と感じるときがあり、そんなときに流れるのはあたたかい涙です。亡き夫の存在や思いが強く感じられて、ありがたくて流れる涙は私をあたたかく満たしてくれます。
大切な人を失うことを、多くの人は“喪失”と言いますが、そうなのでしょうか。私たちは本当にその人を“失っている”のだろうか、と思うのです。たしかにその人の肉体はなくなってしまいましたが、私たちの心からすべてが消え去ってしまったわけではないはずです。むしろ、失ったものを補って余りある何かを私たちは新たに得ているはずなのです。どうかそのことに気付いてほしい。私はいつも、大切な人と死別した方たちにそのように伝えさせてもらっています。
お父さまを亡くされたある女性は、「今この瞬間にお父さまは何をされていると思いますか?」とお聞きしたとき、しばし絶句された後、大粒の涙を流しながら「食べ歩きをしています!」とおっしゃられました。彼女のお父さまはとても食いしん坊だった。だけど胃がんを患い晩年はあまり食べることができなかったそうです。その後彼女は「私も楽しまなくてはいけませんね」とおっしゃいました。自分が今この瞬間の父親のことを想ったことで、父親もまた今この瞬間自分を想ってくれている、そのことに気が付かれたのだと思います。
今、大事な友を亡くされたgreen62さんを、お母さまはどのような思いで見守っていらっしゃるでしょうか? 心配してgreen62さんの背中をさすってくれているかもしれません。是非それを感じ取っていただけたらと思います。そして、そのとき流れる涙はきっと、お母さまを感じるあたたかい涙ではないでしょうか……。
知るべきは、悲しみの乗り越え方でも受け止め方でもないと思います。ですから、green62さんは決して間違えたわけではありません。もしあえて間違えたとするなら、乗り越えようとしていることにあると思います。悲しみとはそのように否定しなければならないものでしょうか?
悲しいのは、それだけ大切な人たちが自分の心の中にいる、ということだと思うのです。またそれは、亡くなった方もこちらに思いを向けてくれているということ。だからこそ悲しみは、大事にしてほしい。胸に抱え続けていてもいいと思います。自分はその人を愛しているし、その人もまた自分を愛してくれている。そのことを示すものだと思うから……。そして、その関係性は今もずっと続いていることに気がついてくださることを、心から願っています。
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- 金子稚子(かねこわかこ)1967年生まれ。終活ジャーナリスト。終活ナビゲーター。一般社団法人日本医療コーディネーター協会顧問。雑誌、書籍の編集者、広告制作ディレクターの経験を生かし、死の前後に関わるあらゆる情報提供やサポートをおこなう「ライフ・ターミナル・ネットワーク」という活動を創設、代表を務めている。また、医療関係や宗教関係、葬儀関係、生命保険などの各種団体・企業や一般向けにも研修や講演活動もおこなっている。2012年に他界した流通ジャーナリストの金子哲雄氏の妻であり、著書に『金子哲雄の妻の生き方~夫を看取った500日』(小学館文庫)、『死後のプロデュース』(PHP新書)、『アクティブ・エンディング 大人の「終活」新作法』(河出書房新社)など。編集・執筆協力に『大人のおしゃれ手帖特別編集 親の看取り』(宝島社)がある。 この人の回答一覧を見る
- 山本 奈緒子1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。 この人の回答一覧を見る
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