――企業の業績などを見ていると経済は厳しそうなのに、一方で株価は上がり戻ってきています。それはなぜなのでしょうか?

 

柴山:ええ、経済とマーケット(株価)は、そもそも別物だと考えた方がいいですね。
 
長期には、経済が成長すればマーケットも上昇しているのですが、短期で見ると必ずしも連動しないものなのです。経済はある程度予測できたとしても、マーケットは予測しづらいものだと思っています。
 
どうしてこのようなズレが生じるのでしょうか。それは、経済データは「過去」をあらわしていますが、マーケット(株価)は「未来」を見ているからです。企業業績やGDP(国内総生産)といった経済データは、あくまでも過去、例えば直近3ヶ月の経済活動を示しています。それに対して、マーケット(株価)は、将来の企業業績や経済への期待によって決まります。

経済がいいときでも悪いときでも、マーケットは“読めないもの”。それは、これから株価が上がると思っている人、下がると思っている人の両方がいて、そのバランスで価格が決まっていくからです。

コロナショックで株価が大きく下がったのは、将来への悲観からでした。その後、株価が戻ってきているのは、コロナショック後の将来への期待が楽観的になってきたからです。このまま、楽観的な見通しが続けばマーケットは回復し続けますし、逆に将来への悲観的な見通しが広がれば、マーケットは再び急落するかもしれません。
 
もちろん、中長期的に見てみれば経済が成長していくことで、株価は上がるものですが、そもそもは経済とマーケット(株価)は分けて考えておくといいでしょう。見ている時間軸がまったく異なるため、経済がそこまでよくなくても株価が上がるということはありますし、その逆もありうるのです。

 


――そう考えると、短期的な相場の上下を見て、投資のタイミングを気にして疲弊しないほうがいいですね。あくまで中長期で考えるべきですね。

柴山:そうなんです。投資は「自分のタイミング」で決めるべきであって、株価や経済、政治的、社会的要因に流されないことをおすすめします。
自分がそのとき投資できるお金があるのか、投資したいのかどうか、で決めるべきなのです。「リーマンショックで相場が下がったときに買っておけばよかった」と思っても当時手元にお金がなければ投資はできませんしね。
 
それに、10年以上の長い目で考えれば、「いつ始めるか」すら誤差の範囲ともいえます。

リーマンショックで相場が一時的に下がっても、長い目で見ると右肩あがりになっている。

こちらのグラフは、世界全体に25年間投資したらどうなっていたか、をあらわしています。これを見ていただいてもわかる通り、リーマンショックなどの経済危機が起こると、一時的に株価は下がっています。でも、それを乗り越えながら成長を続けていますよね。
 
世界全体に投資して、その投資を長く続けていくことが大切だとお分かりになると思います。
 

――今の株価の変動を見てみると「3月末くらいが底値だったかも。そのときに買っておけばよかった」と後悔する声もありますが、「自分のタイミング」が大事なんですね。

柴山:そうですね。投資は「自分のタイミング」で始めるべきなので、「あの時買えばよかった」と悔やむことは、精神的にもよくないですね(笑)。

その逆のパターンもあります。例えば、リーマンショックの直前の株価が一番高かったタイミングで「長期・積立・分散」をスタートさせた人は、ある意味、最悪のタイミングで投資したと思われがちです。実際、リーマンショックで大きく資産を減らしました。しかし、結果的には、10年以上かけて、資産は大きく増えているはずです。マーケットがよかった最近5年間に「長期・積立・分散」で投資してきたという人ですらリーマンショックの直前にスタートした人にはかないません。このことは直感に反するのではないでしょうか。
 
ですから先ほどのグラフを見て頂ければ後悔する必要もないと思います。これまで「長期・積立・分散」で投資をしていた方が、一時的に株価が下がったからといって、焦る必要もありませんよね。10年、20年と長い目で見れば、右肩上がりになっているわけですから。これは、10年、20年かけて世界経済が成長してきたからです。長期的には、経済とマーケットは連動してきたのです。 
 

――それでも「なんだか不安」という方に、アドバイスはありますでしょうか。

柴山:まず不安を、「健康」と「お金」に分けて考えましょう。
健康については、私たち一人ひとりの命に代わるものはありませんから、不安になるのは当然です。科学的データに基づいて警戒し、健康であることを最優先に行動することが大切です。
 
一方で資産運用については、世界全体に投資しているなら不安になることはないでしょう。
 
もちろん、短期でお金を増やすことを目指しているなら話は別ですが、たいていの方は定年後、老後などに備えて長期的にお金を増やそうとされているのではないでしょうか。長期で運用すると考えれば、投資を続けていくうえで株価の下落や経済危機は必ず通る道ともいえます。それらを乗り越えて、資産を増やしていくのが「長期・積立・分散」です。
 
それなら、ここ1、2か月の経済の状況――たとえば失業件数や倒産件数、それに株価などを気にして、投資をやめてしまうのはもったいないですね。「どんな目的で、どんな時間軸で資産運用を考えていくのか?」と、今一度、ご自身に問いかけてみていただくのがいいですね。

撮影/山本遼
取材・文/西山美紀
構成/片岡千晶(編集部)

 

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