暦の上では随分前に立秋を迎え、実際の季節感とは裏腹に、ファッション業界ではプレコレクションと呼ばれる、秋冬メイン商品に先立つラインナップが店頭に並ぶ。
夏のソルドが落ち着いて来た頃、≪新作につきセール除外品です≫の文字と共に輝かしく登場する商品群は、買ってすぐに着られるアイテム達。クルーズとか、リゾートコレクションとも呼ばれ、秋冬に常夏の国へのバカンスに出る事もある私には、とても魅惑的に映る。
この短い期間に登場するアイテム達は、メインコレクションとは違ってストック数も少なく、迷っているうちに完売、なんてことも多い。お嬢さん方!プレコレクションに迷いは禁物ですぞ。
ロックでエレガント、そして最高にロマンチックなこの作品は、ブティックで出遭った瞬間に、あ!私のドレスだ、と分かった。
案の定、あつらえたかの様に私の躰にピタリとはまる。
試着室から出た私を見て、店長のアリスさんが目を細め、軽く二度ほど頷いた。
こういうマジックな瞬間を、長年お世話になっている彼女と共有出来た事が嬉しかった。
例年とは違ったおかしな夏を余儀なくされたパリジャン達は、私も含めてだが、何だか喉元に魚の骨が引っかかっているような、妙なフラストレーションを抱えたまま消化しきれず、夏を終わりに出来ないでいる。九月中旬のパリは、素晴らしい晴天に恵まれ、このところ日中は三十度を超えているから尚更だ。
このドレスを身に付けたら、気持ちがすぅーっと秋になり、夏に落とし前がついた様な気がした。
ファッションって凄いな。本物は、着た瞬間に判るし、有無を言わせない説得力がある。
もう少しして本格的な秋が来たら、ライダースを肩から羽織って、足元はゴールデングースのラグジュアリーなスニーカーで出かけよう。一枚の服との出遭いから、自分の心理状態を垣間見た。そう、私は今、何よりも心に強さが欲しい。
人にも物にも、運命の出遭いの様な事があって、それだと分った時には、決して迷わずに手に入れる。そうすると、ずうっと先のビジョンまでもがクリアに見えてくるから不思議だ。
お洒落とは程遠い、私の愛する薄汚いカフェタバが、このドレスには良く似合う。
ロックでロマンチックでエレガント。これが私の思う究極のパリスタイル。
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