妊婦はPCR検査を受けた方がよいか 


さて、妊婦さんはPCR検査を受けた方がいいのでしょうか。 

 

分娩する施設で検査が必須であれば、受ける以外の選択肢はありません。検査を受けることで医療スタッフや施設は守られ、それは自分と赤ちゃんの安全にもつながります。 

では、特に施設から検査を受ける指示がない場合は、どうでしょうか。気になるのは、本当は感染していないのに陽性と表示されてしまう偽陽性の存在です。通常なら、偽陽性になったとしても、自宅待機など一定期間不便な思いをするだけで済みますが 、妊婦さんの場合は、そんな簡単な話ではありません。新型コロナウイルス感染者としてのお産に切り替わるため、陽性と陰性では大きな違いがあります。本当に感染したのならともかく、感染しないようにずっと気をつけて生活していたのに、検査の間違いで陽性対応の出産になってしまったのでは納得がいきません。

PCR検査自体はかなり精度が高く、偽陽性の出にくい検査ですが、どんな検査でも間違いをゼロにすることはできません。実際のところ、新型コロナウイルスのPCR検査の正確な偽陽性率はわかっていません。無症状の人もいる以上、陽性という結果が出た人が本当に陽性なのかどうかを区別する手段がないからです。陽性になった人の検体をもう一度PCR検査して陰性になった検体があれば、偽陽性のケースがわかるかもしれませんが、今のところそれを行っている余裕がなさそうです。

出産間際の妊婦さんが陽性と出た場合、重大な結果なのでもう一度念入りに検査をするかもしれません。しかし、検査の結果が出るまでに数時間から1日かかってしまうので、直前の時期には何度も行うことは難しく、もしかしたら疑念を晴らせないままお産に突入してしまうかもしれません。

こんなことを書くと、検査を受けたくなくなってしまいますよね。
PCR検査を受けるメリットとしては、万が一、自分が感染していたときに、赤ちゃんを守れるということだと思います。知らずに感染してしまい、そのままお産に臨んだら医療スタッフも赤ちゃんも感染してしまいます。 
新生児が出産後に感染したとみられる中国国内の例が論文で報告されています。6人中、3 名が発熱、2名が哺乳不良、3名が嘔吐。肺炎が確認されたのは1名だけという結果でした。 

特定の治療なしに回復し、経過は全員良好ということで、過剰に心配することはないですが、 小さな体で生まれたとたんにウイルスと戦うことになるのはかわいそうです。 
もしお母さんが陽性だったとしても、お腹の中で感染したと考えられる例は少なく、しっかり準備して臨めば赤ちゃんには感染せずに出産することができます。北里大学病院の妊婦さんの例も赤ちゃんは陰性でした。 

PCR検査の偽陽性について、少し脅かしてしまいましたが、偽陽性が出る確率は偽陰性に比べてかなり小さいと考えられています。ですが、検査を受ける以上、どんな結果が出ても受け止めるという覚悟が必要です。たとえ、偽陽性だったとしても、です。 
陽性になった場合はどう対応するのか。しっかりと事前に説明を受けて納得してから、検査に臨んだ方がよいでしょう。 
 

 

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構成/小泉なつみ

 

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