ライダースジャケットほど難しいアイテムって他にあるのだろうか。
ワードローブの定番中の定番で、誰もが一度は憧れた事があるのだろうに、実際に持っている人はそんなに多くない様な気がする。
まんまバイク乗りだったり郵便配達員だったり。はたまた道端の靴磨き職人さん。一つ間違えると、コスプレ感覚満載の、非常に危険なアウターでもある。主張の強いアイテムでもあるからにして、着る人本人の個性が確立していないと、ジャケットのパワーに負けてしまう事もあるだろう。
斯く言う私も、このライダースジャケットに出遭うまでに、一体何年かかった事か。一生物とも言えるアイテムだから、運命の一枚に巡り会うまでは、じっと我慢の子。妥協は一切許さずに、国内外の数々のメゾンで試着を繰り返していたものだ。
世界に誇るドメスティックブランド、ビューティフルピープルの代名詞。ここのライダースジャケットには私の理想が全て詰まっていた。
ヴィンテージ加工された上質の羊革はあくまでも柔らかく、私の躰にピタリと吸い付く。145cmというサイズ表示は、≪大人が着る子供服≫というコンセプトに基づいているのが面白い。ウエスト部分のベルトも本格的なバイカー仕様でありながら、野暮ったいゴツさが無く洗練された印象。ユニセックスで大人も子供も同じデザイン。あくまでも中性的でありながらも、私が袖を通すと、途端に大人の女性の色香が漂い出した。
パリの夜は美しい。陽が落ちて、闇が街の醜さを隠したかと思うと、街灯がセーヌ川の水面を妖艶に照らし出した。岸辺に吹く夜風の凍て付く様な寒さを、防げる訳がないのにライダースの襟を立ててみた。
察したのか、彼がそっと肩を抱いてくれる。愛する人と久しぶりに肩を寄せ合って歩く幸せをかみしめた束の間。美しいパリの夜。
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