ちょっと離れたところから見ると、「えっ、そんなことで死にたいのか!」と思われる人がいるかもしれませんが、中にいるとなかなか外からの風を感じにくいし、感じたとしても自分の中に取り込むのが難しかったりします。

僕は、こういう人たちは悩んでいるだけだから死なない、とは思いません。むしろ、自ら命を落としてしまった人は、こういう状態にあったのではないかと思います。離れたところにいる人と話をすることができたら、気持ちが変わったかもしれないと。もちろん、仮の話に過ぎないですが。

 

でも、死ぬ人はどんな助けが入っても死ぬ、死なない人はどんなに死ぬと言っていても死なない、と簡単には言い切れません。僕はむしろ違うのではないかと思っています。死ぬ必要がある人なんて一人もいない、死ぬと決めている人ですら実は、とても固まった思考回路の中にいるからそうなっているのであって、そこから離れたら、死ななくていいと思えるはずだ、と。

なぜ死んではいけないのか、と聞かれても、僕には答えはありません。

 

もしかしたら死んではいけないと思っていないのかもしれません。僕も自殺で友人を亡くしたことがあります。自殺した人たちの人生についても肯定しています。ただ、それは「いのっちの電話」をはじめる前でした。彼らの死は僕が「いのっちの電話」をはじめるきっかけの一つになりました。

死にたいと思っている時は、ここから抜け出せるとは絶対に思えないような思考回路に入っている。

死にたいと思った時にはまず、自分が死にたいと思っていること、つまり、この思考回路に入り込んでいる状態だということを、周囲に漏らすことがとても大事なことだと思うんです。

でも難しいですよね。家族や友人にこのことを伝えるのは。僕ももちろん恥ずかしいですが、とにかく周囲に言葉で知らせるようにしています。しかし、電話をかけてくるほとんどの人は、誰にも言うことができずにいます。どうにか平静を装いながら、会社に行ったり、学校に行ったり、家族と暮らしたりしているのです。

この文章は、僕自身の波の満ち引きのままに書いています。あなたも自分の波を感じてみましょう。波が強すぎて、文章を読んでいる場合じゃないと思った人は、迷わずに09081064666に電話してください。

携帯電話の番号を不特定多数の人に教えるなんて、大丈夫なのかと心配してくれているかもしれませんが、あなたが死ぬよりもいいじゃないですか!

ここはひとつ、お互い様の精神で、気楽にかけてきてください。死ななきゃなんでもいいんですから。どんどん電話をかけて、死にたいということを、僕に知らせてください。
その行為自体が、あなたの助けになるんです。

 

『苦しい時は電話して』
著者:坂口恭平 講談社 800円(税別)

著者が、自殺者をなくしたいという思いで始めた「いのっちの電話」。日夜を問わずSOSに耳を傾ける中で見えたものとは。死にたいという思いに翻弄され続けた著者だからこそ紡がれる真っ直ぐな言葉と、生きるためのアドバイスが詰まった一冊です。
 


構成/金澤英恵