食事や排便排尿の異常=「在宅の限界」は本当か?

 

あるとき、ケアマネやヘルパーの勉強会で「在宅の限界」ということばが出ました。わたしは具体的にどんなことがあって、それを「在宅の限界」と判断するのか、と食い下がりました。答えは「異食行動」でした。「異食」って、こんな漢字変換しにくい専門用語を使わなくても、「へんなものを口に入れてた」でいいのにねえ。で、その「異食」って何を食べたんですか? ってさらに聞いたら、「夜中におなかをすかせたらしくて、冷凍食品がかじってありました」ですって。その何が問題なのでしょう? 冷凍食品をかじったからといって、死ぬわけじゃなし。固くて冷たいから途中でやめたのでしょう。それに冷凍庫には食品があるという認識があった証拠ですし。

 

いくら「異食行動」と言っても、洗剤を飲んだりしたら、匂いや味で吐き出すでしょう。致死量に至るまで飲むとは思えません。

認知症の「異常行動」のひとつに、排便排尿の異常があります。しかるべきところでない場所でおもらしや脱糞をしてしまうことです。それだって理由がわかっています。排便排尿のサインが適切に脳に届いていなかったり、トイレの場所がわからなかったり、探し回っているうちに切羽詰まってやってしまったり。ご本人もしまった、と思うのか、プライドを守るために糞尿を隠したり、というエピソードには事欠きません。

こんなケースを聞きました。認知症高齢者の父親がひとり暮らし、近所にはその息子が妻と共に新築の家に住んでいます。父親は座敷の畳の上や廊下で排便や排尿をするので、家に入るとむっとおしっこやうんこの匂いがします。

訪問ヘルパーさんはもくもくとその後始末をしてくださっています。周囲は息子夫婦に、新築の家に父親を引き取ればよいのに、という目を向けますが、息子はケアマネと相談して、それはしない、オヤジの家はオヤジのものだから、好きなようにおしっこうんこだらけにしてくれたらいい、と心を決めたのだそう。息子はそうやって妻を、いえ、自分と妻との夫婦関係を守ったのです。

この話をしてくれたケアマネさんはしみじみとこう言いました。

「家族の覚悟さえ決まれば、認知症でもひとりで家にいられるんですねえ」