「勝利至上主義」「我慢は美徳」
間違った風潮は大人から正して


伊藤:現役時代と引退後では、自分の身体への考え方は変わりましたか?

大山:そうですね、だいぶ変わりました。現役時代は、日本一になることしか頭にありませんでした。

特に、春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)への思い入れは強くて、大会直前に他の選手と衝突して肩が上がらなくなった時も、鍼灸に通いながらなんとか試合に出続けたことも。
あの頃は本当に「肩が壊れても構わないから私にトスを上げて!」という気持ちだったんです。
その先に待っているオリンピックさえ二の次に感じられるくらい、春高バレーで優勝することが最優先事項でした。その結果、今でも肩が痛むのですが。

 

伊藤:私の認識としては、日本人には「我慢は美徳」という考えがありますね。選手自身もそうですが、応援してくださるみなさんからも、そんな視線を感じることがあります。

たとえば、「怪我を乗り越えて勝利を手にする」といったエピソードがメディアから引っ張りだこになったり。

 

大山:実は、乗り越えられていなかったりしますけどね(笑)。
仮に、怪我を押して試合に出場し、いい成績を収めた選手がいたとしても、その人ができたからとみんなもできるわけではないし、トップがそうでも、その下のカテゴリーに同じことを求めるべきではないと思います。

伊藤:子どもの頃にどんな風に競技と向き合ったかという経験も、その後の競技人生を大きく左右する要素ですね。

大山:それは大いにあります。
私は、小学校で入ったチームが全国優勝に燃えていて、最初からそういう環境に身を置いてしまったので、それが当然と思い込んでしまいました。

伊藤:ただ、やはり子どもは目の前の環境に精一杯になりやすいから、20代、30代の未来までなかなか想像できないですね。
だからこそ、本来は、子どもたちが自分の身体を大事にしたり、痛みを素直に表現できる環境を整えることは、周囲の大人の役割だと思うのです。

大山:本当にそうですね。
子どもは、勝つことだけに集中してもいいと思うけど、問題は、監督やコーチと言った周囲の大人までが「勝利至上主義」になってしまうこと。
もっと、子どもたちの人生を預かっているくらいの覚悟と責任を持つべきです。

スポーツは、本来、人生を豊かにするためのツール。
私自身は、とにかく勝つことだけを目的としてプレイしてきてしまって、引退後にさまざまな苦労をすることになってしまいました。
若い選手たちには同じ苦労を背負って欲しくありません。

もちろん、勝利は多くの喜びを運んできてくれますが、もっと大事なことがあるはず。
私も、後に続くみなさんに「スポーツを通じて、自分はどんな人間になりたいか」ということを考えて頂けるように、今後もサポートしていくつもりです。

大山加奈/元バレーボール女子日本代表 小学校2年生からバレーボールを始め、小中高全ての年代で全国制覇を経験。高校卒業後は東レ・アローズ女子バレーボール部に入部した。高校在学中の2001年、日本代表に初選出され、オリンピック・世界選手権・ワールドカップと三大大会すべての試合に出場。力強いスパイクを武器に「パワフルカナ」の愛称で親しまれ、日本を代表するプレーヤーとして活躍した。2010年6月に現役を引退し、現在は全国での講演活動やバレーボール教室、解説、メディア出演など多方面で活躍しながら、スポーツ界やバレーボール界の発展に力を注ぐ。

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一般社団法人スポーツを止めるなは『1252プロジェクト』として女子学生アスリートが抱える「生理×スポーツ」の課題に対し、 トップアスリートの経験や医療・教育分野の専門的・科学的根拠に基づき、 教育・情報発信を行うプログラムを推進しています。
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文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)


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