2020年のブラック・ライブズ・マター(BLM)運動を背景に話題を集め、ニューヨークタイムズベストセラーで1位、米Amazonで1位を獲得し、130万部のベストセラーとなったのが、歴史学者であるイブラム・X・ケンディさんの著書『アンチレイシストであるためには』です。

人種のみならず、民族、文化、階級、ジェンダー、セクシャリティなどの違いを認め、不平等に対して否定的な立場をとる「アンチレイスト」であるために必要なことを説く本書。そもそも「レイシスト」とは、主に人種差別主義者を表す言葉として知られていますが、本書ではより詳細にレイシズム的考えとは何か、そしてアンチレイシズムとは何かを提示します。

「レイシズム的考えとは、“ある人種集団がなんらかの形で別の人種集団よりも劣っている、または優れていることを示唆する考え”のこと。レイシストは、“社会に人種的不公平が存在するのは、人種集団間に優劣があるからだ”と主張する。(中略)アンチレイシズムでは、“人種間には表面的な違いはあっても優劣はなく、すべて等しい存在である”と考える」

日本においても多様性が重視される昨今。少なくない人が、自分の中にある古い価値観を見つけては、アップデートに励んでいるのではないでしょうか。その一助となるであろう本書の中から、今回は特別にジェンダーにまつわるパートを一部抜粋してご紹介します。

 

アフリカ系アメリカ人であり、“黒人”というだけで子供の頃から様々な差別を受けてきたことを、本書の中で赤裸々に綴っている著者。しかし、あらゆる差別を容認しない「アンチレイシスト」になるまでは、「ぼく自身もレイシストだった」と告白しています。

 


ぼくのジェンダーやセクシュアリティに対する考え方は、両親の影響を受けている。父と母は、ぼくを同性愛嫌悪にならないようには育てなかった。二人がゲイやレズビアンについて話すことはめったになく、あったとしても当たりさわりのない話題として触れるだけだった。語られないから、存在しないも同じだった。
(中略)
父は教会でよく、うちは妻が最高財務責任者(CFO)だ、と冗談めかしていた。家父長的な価値観をもつ周りの男たちは笑っていたが、父は嘘をついていたわけではない。実際、家計をとりしきっていたのは母だった。ただし父は男尊女卑的な考えをもちあわせていたので、妻に自分を立てることも求めた。同じ考えをもっていた母も、妻として夫にしたがっていた。母は父を一家の長と呼び、父はそう呼ばれることを受けいれた。

ぼくが家父長的な価値観をもつ黒人に育ったのは、両親からそうなるように厳しく育てられたからというよりも、親からも社会からも、黒人のフェミニストになるように厳しく育てられなかったからというべきだろう。ぼくが子供の頃は、黒人の少年に黒人のフェミニズムを教えるような時代ではなかった。


こうした黒人のジェンダー問題が顕在化したのは、1965年にメディアが米政府の報告書、「黒人世帯:全国的な行動が必要な事案The Negro Family : The Case for National Action」を取り上げたことに始まる、と著者は考察。この調査報告書では、黒人世帯では女性が世帯主である割合が4分の1近くに達しており、白人世帯の2倍もの割合に上ることがわかったといいます。