墓じまいは故人の思いに背くことになる?


もう一つ、墓じまいをしようとする際に気になるのは、その墓に葬られている故人の気持ちです。

故人は、墓のある地域でずっと生活してきたからこそ、その墓に葬られているわけで、そこが唯一の故郷です。にもかかわらず、墓じまいをし、改葬していいのか。遺骨は別のところ、故人にとっては縁もゆかりもないであろうところに移されるわけで、それは故人の気持ちを踏みにじることになるのではないか。そういう思いが湧いてきて、墓じまいをためらうこともあるでしょう。

 

これは、人の死をめぐって、さまざまな形で起こることでもあります。亡くなった人間の考えと、残された家族の考えは必ずしも同じだとは限らないからです。

 

そもそも故人の遺志というものが明確でないことが少なくありません。そうしたことを話し合う機会もなかなかめぐってきません。高齢者に対して、葬式はどうする、墓はどうすると聞くのもはばかられる。そうした機会を見つけるのはなかなか容易ではありません。

そういうときどうしたらいいのか。それについての対策本があります。奥山晶子さんの『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がそれです。

奥山さんは、葬儀関係の会社で働いていた経験があり、その後は、葬式や終活関係のライターとして活動しています。私が、葬送の自由をすすめる会の会長をしていたときには、理事をつとめてもらいました。

この本は、なかなか巧みにできていて、ちょっとした話題を持ち出すことで、親の本音を聞き出すコツが伝授されています。

たとえば、そのなかに「おじいちゃんの墓って、遠いよね」という問い掛けが含まれています。このように問い掛けることで、親が、故郷にある先祖代々の墓に入りたいのか、それとは別に新しく墓を購入して、そこに入りたいのか、本人たちの意向を聞き出すことができるというのです。

本人たちの考え、意向がわかるということは、どのような葬り方をしたらいいかの参考になります。しかし、それはあくまで参考であって、本人たちの遺志が絶対だというわけではありません。それに、考えを聞いていても、それをしっかりと覚えていられるのかどうか、そこにも難しさがあります。

以前に亡くなった先祖となれば、その考えを知ることはほとんど不可能です。墓じまいしようとする墓には、そうした先祖が葬られています。本人たちは、亡くなる時に、ずっとこの墓に安置されるだろうと考えていたはずです。にもかかわらず、その遺骨を移してしまっていいのか。ためらいが生じる場面です。