本来は(3)で一件落着となる場合もあるようですが、あっせんには強制力がないため、まだまだここからが勝負……となるケースも。ノリエさんは残念ながら後者で、社長と断固戦うべく「裁判の一種である労働審判」に臨むことを決意します。

労働審判は、労働者と事業主の間で起きた問題を、スムーズに解決することを目的とした制度だ。裁判官によって法的拘束力のある判決が出されるが、弁護士をつけるのは必須ではない。ノリエさんは費用を安くおさえたいのもあり、自分自身で訴訟に臨むことにした。細かな証拠資料や法的書面を準備せねばならずそれなりに大変だったが、地域の弁護士会の無料相談を利用できたので、アドバイスを受けながら、コツコツと資料を用意した。

「勤務中日誌をつけていたので、それをもとにハラスメントにあたるだろう相手の発言を思い出してリストをつくったりしましたね。解雇通知書をもらった日の録音データの文字起こしも自分でやりました。あれはかなりきつかった……」


勝訴が「成功体験」に

 

胃が痛くなるような毎日を送りながらも準備を整え、ついに審判の日を迎えたノリエさんの運命は――。

 

相手は3人も弁護士を雇い、「本当は契約社員として雇ったつもりだ」「解雇ではなく雇い止めに過ぎない」などの主張を繰り出してきた。しかし、正当に解雇できるという証拠のつもりで出した就業規則が、最近慌てて定められたものだったことが発覚するなど、ボロが出る場面も多く、裁判官も「ノリエさんの主張の筋が通ってると思いますよ」と呆れる展開に。結局、会社側に慰謝料80万円の支払いを命じる判決がくだされた。ノリエさんが無事、勝訴したのだ。

「社会経験ゼロのなかで起きた事件で、本当につらかったですが、一生懸命勉強したおかげで、知識をインプットして立ち向かえば、なんとかなるという成功体験になりました。この80万円で、まずは家族に高い寿司をおごりました。祝勝会ですね。無職の間家族にお金を借りていたので、それも返して……。残ったお金は、年末に海外旅行に行くのに使いました!」