法律や行政は、知っておけば味方になる


ノリエさんは、その後別の企業に無事再就職。採用時には契約書の内容にもしっかり目を通し、自分が得意なこと、苦手なことを事前にしっかり伝えたと言います。その方が、後々揉め事がないと、身を持って経験したからだでした。新卒、たったひとりの訴訟を経て、ひらりささんとノリエさんはこう振り返ります。

 

身にしみたのは、「世の中のルールは、知っていれば知っているほど自分を助けてくれる」ということだ。

 

「今の会社も小さい会社なので、たまにモヤモヤすることはあります。そんなときも『いざとなれば相談できる人もいるし、なによりこの経験があるから大丈夫』という自信があるので、楽しく働けていますね。年上の社会人って、みんなしっかりして見えるじゃないですか。でも本当にそんなことなくて。『こんな連絡ある?』『普通そんなこと言う?』ということはザラにある。法律や行政などを、自分にはなんとなく関係ないし……と切り離さずに、いざとなったら頼れるようにしておくのは本当に大事なことだと思います」


「やりがい」という沼で、契約にない要求やおかしな暗黙のルールに縛られたり、会社から漬け込まれてしまうことは、誰の身にも起きうることではないでしょうか。ひらりささんが紐解く、沼から這い上がるために必死にもがく女性たちの姿からは、理不尽なしがらみに「NO」を突きつける勇気と覚悟がもらえるかもしれません。

著者プロフィール
ひらりささん

ライター・編集者。1989年、東京都生まれ。女性、お金、消費、オタク文化などのテーマで取材・執筆をしている。女性4人によるユニット「劇団雌猫」名義での共同編著に、『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)などがある。

『沼で溺れてみたけれど』
著者:ひらりさ 講談社 1540円(税込)

『浪費図鑑』『だから私はメイクする』の編著者、「劇団雌猫」のひらりささんが贈る、女たちの“お金”と“欲望”をのぞくインタビューエッセイ集。「キスに4000円、ママ活男に料金表を渡された女」「都民税が払えなくても、彼女は天職探しを諦めない」など、愛・社会・しがらみをめぐる沼に溺れた女たちは、何に幸せを見出したのか? ハッピーエンドばかりではないけれど、でもなぜか前向きな女性たちに、「こんな生き方があってもいいんだ」と心が軽くなる一冊です。


構成/金澤英恵