「散歩でもしようか」

午後、カンタンに声をかけられた。仕事を早めに切り上げたらしい。

日本のお葬式、フランスのお葬式_img3
 

二人でぶらぶら近所を歩いて、ベルヴィル墓地にも寄る。

私は不思議とフランスの墓地が好きだ。日本の墓地は暗い色の墓石がぎっしりと立ち並び、なんとなく重々しい空気がある。日本の墓地が暗い林だとすると、フランスの墓地は明るい平原。長年土葬がメインだったため、お墓の一区画が大きく、平たい墓石の上に花や鉢が置かれ、視界を遮るものがなく光が溢れている。独創的な墓石やモニュメントも多く、語弊があるかもしれないが、見ていて楽しい。

 

「日本のお葬式って『Departures(おくりびと)』とかで見たことあるけど、すごく独特だよね。故人に白い着物を着せたり、様式美と緊張感があって」

 墓地を歩きながらカンタンに言われ、私もフランス映画に出てくるお葬式のシーンを思い浮かべてみる。

「フランスは教会でお葬式なんだよね」
「洗礼を受けてる人ならね。僕が叔父の葬儀に参列したときは、教会で賛美歌を歌って、詩の朗読もあったかな。それから墓地に埋葬。花を投げ入れてお別れしたら、故人の家で賑やかな食事会」

その「賑やか」ぶりがありありと想像できて、ちょっと笑ってしまった。

「日本は火葬なんだよね。箸で骨を拾うんでしょ? 祐希は経験ある?」
「うん、おじいちゃんのお葬式で。二人一組で拾うんだけど、骨を落としたらどうしようってすごく緊張した」 

私はおばあちゃんの骨を拾えないんだ……改めて気付き、胸がチクリとする。

「カンタンのご家族のお墓はどこにあるの?」
「知らない」
「え! お墓参りとかないの⁉」
「うーん、でも祖父母はまだ生きてるし」

苦笑するカンタンに仰天した。

十一月一日は全ての聖人と殉教者を讃えるカトリックの祝日、「諸聖人の日」。その翌日に全ての死者のために祈りを捧げる「死者の日」があり、フランスではこの時期に家族でお墓参りに行く風習がある。

ただ、敬虔なクリスチャンでもなく、先祖代々の墓もないカンタン家にはそうした習慣がなかったらしい。

かくいう私も実家が代々どんな仏教宗派に属しているのか知らないし、お盆やお彼岸に必ずお墓参りに行っていたわけでもないのだけれど。


パリの街角のリアル
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次回、ついに最終回!

日本のお葬式、フランスのお葬式_img4

<新刊紹介>
『燃える息』

パリュスあや子 ¥1705(税込)

彼は私を、彼女は僕を、止められないーー

傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)

依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)

現代人の約七割が、依存症!? 
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!


撮影・文/パリュスあや子


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