2021年11月9日に99歳でこの世を去った瀬戸内寂聴さん。苦悩にあえぐ女性たちに厳しくも愛に満ちたアドバイスを贈り続け、多くの人たちから“寂聴さん”の愛称で親しまれてきました。今回ご紹介する『今を生きるあなたへ』は、寂聴さん最後の語り下ろしとなった一冊。聞き手を務めるのは、この12年間誰よりも近くで寂聴さんを見つめてきた秘書の瀬尾まなほさんです。結婚、不倫、文壇デビュー、出家と波乱万丈な人生を送り、「私らしく生きること」を決して諦めなかった寂聴さんが、旅立つ前にどうしても伝えたかった、今を生きる人たちへのメッセージとは――。本書から特別にその一部をご紹介します。

笑顔で手を取り合う、瀬戸内寂聴さん(写真左)と瀬尾まなほさん(写真右)。


他人と比べたり、過去を悔いたりしても、人は幸福にはなれません


瀬尾まなほさん(以下、まなほ) これは日本人に限ったことではないかもしれませんが、どうも私たちは他人と比べて、自分のほうが劣っていると嘆く悪い癖があるように思います。例えば子どもを比べて、「隣の家の子どもはあんなにいい大学に入ったのに、自分の家の子どもはそうではない」とか……。

瀬戸内寂聴さん(以下、寂聴) それは、その人の考え方がおかしいのです。そんなことを比較して嘆いても、まったく意味がないことです。

まなほ すぐに自分と誰かを比べて、私のほうが勝っているとか、負けているとか、気になって仕方ないところがあると思います。

 

寂 聴 例えば?

まなほ 例えば、友だちのほうがいいダンナさんを見つけたとか……。

寂 聴 それは仕方ないことです。そして、一番つまらないことです。「隣の奥さんがあれを買ったから、私はこれを買おう」なんて、実につまらないことではないですか。向こうはそれが似合うかもしれないが、こちらは似合わないということだってあるでしょう。「あの奥さんよりもいいものを買おう」とか、そんなことを考えて無理をするのが一番バカバカしいことです。

まなほ 小学生ぐらいのころから、成績に順番をつけられたり、かけっこをしたら1位、2位、3位と順位をつけられたりします。そんなことでつい、自分と他人とを比べるような習性がついたのではないでしょうか?

寂 聴 私はずっと一番でしたから、そういうことはわかりません(笑)。でも、成績が何番だとか、かけっこが何位だとか、そんなことは世の中で生きていたら必ずついて回ることです。会社へ入ったって、「あの人のほうが仕事ができる」とか、「営業成績がいい」とか、必ず評価がついて回ります。それは仕方ないことです。そんなことをいちいち気にしていたら、生きていかれません。

次ページ▶︎ “クヨクヨしてしまう性格も、自分を変えるバネに

女性たちを力強く励まし続けた、瀬戸内寂聴さんの笑顔
▼右にスワイプしてください▼