感染流行が広がれば、ウイルスの増幅と変異が進む


これらのデータから予測される最善の道は、このまま人間の免疫の壁が大きく立ち上がり、ウイルスも病毒性を増すことなく、あるいは免疫の壁から逃れることなく、新型コロナウイルスがインフルエンザのような季節性の流行にとどまり、対処可能な病気になる未来でしょう。

一方で、そこには不確定要素があまりにも大きいことも知っておく必要があります。例えば、今回のオミクロンの流行のような大きな感染流行が起こることで、ウイルスが増幅する機会が増え、結果として変異の機会が増えることにつながっています。変異は突拍子もなく起き続けていて、病毒性が増すこともあれば、免疫を回避することにつながることもあります。仮に、病毒性が増し、ワクチンの免疫を全くもって無効にするような変異ウイルスが生じてしまったとしたら、人間にとっては、とても都合の悪い変化です。

 

感染流行に関しては、自分の国が良ければそれでよいということでもありません。自分の国で強固な感染対策が行われ、ワクチンの接種率が著しく上昇し、感染者数や重症者数が著しく低下しても、別の国でワクチンの接種が伸びず、感染者が増えてしまえば、それだけウイルスが変異の機会を増やすことになります。それが結果として、新しい特徴を持った新しい変異を生み、それがまた世界中の脅威になりえます。私たちはこれまで繰り返しそれを経験しましたが、同じことが繰り返される可能性が高いことは容易に予想できるのではないでしょうか。

過去には、ウイルスが強くなっていくケースも


ウイルスは、今後も病毒性が低下し続けることを保証してくれません。確かに、ウイルスが人に感染してすぐに重い症状を出してしまうという場合には、病毒性の低下したウイルスが残存していく可能性は高くなります。なぜなら重い症状を出した場合、人と人の間で伝播が起こりにくくなるからです。

しかし、残念ながら新型コロナウイルスはその特徴が異なります。このウイルスは、人がまだ症状を出し始める1~2日前から感染伝播していくウイルス(参考文献6)で、重症化する前の段階でこそ感染伝播しやすいウイルスなのです。このため、病毒性が増加しても、感染伝播に不都合はありません。

実際に、オリジナルのウイルスよりも後に出現したアルファの感染で重症化しやすい傾向が報告されてきましたし、古典的には、1918年に起こったインフルエンザのパンデミックでも、第1波よりも第2波でより重症化しやすくなっていたことが報告されています。このように、後から病毒性が増しても全く不思議ではないのです。

最悪のシナリオを想定してみると、ウイルスの病毒性が増し、人々の免疫もその働きを十分発揮できなくなるような変異ウイルスが誕生してしまったとしたら、楽観的なシナリオは崩れ、ワクチン獲得以前の状況に戻ってしまう可能性も残されているということになります。

このように、シナリオは多くの不確定要素によって左右されることになります。人々の行動、免疫、ワクチンの接種率、ウイルスの獲得する新たな変異。これらの要素が動的に影響を及ぼしあって、シナリオを突如として変更させます。