「フランス人の恋愛観って謎すぎるよ」
源二郎を励ましたかったのに、声がかすれて弱々しい文句のようになってしまった。
「どこに本心があるのかわかんない。本気なのか、遊びなのか……」
あっちにいったりこっちにいったり、ギヨームとのこれまでのことを源二郎みたいに理路整然とは語れない。でも源二郎は根気よく耳を傾け、頷いてくれた。
「フランス人は言わなきゃわからないよ。黙っててもこちらの気持ちを汲んでくれるだろうなんて期待しないことだね」
「うん……」
「好きなんだろ、そのアライグマ男が」
「たぶん」
「たぶんってなんだよ。そんなだから、男のほうもハッキリしないんだ」
ぴしゃりと返され、詰まってしまう。でもその通りだ。この前だって私からキスを避けたし、逃げ帰ってしまった。私がギヨームに曖昧な態度を取らせているのかもしれない……
「羨ましいよ」
短調から長調に転調するように、不意に源二郎の声音が優しくなった。
「二人はまだこれからなんだろ。本音をぶつけ合う余地がある」
驚いて見つめると、いつものように姿勢を正して真っすぐ前を向いていた。眩しそうに細められた目には、恋焦がれても、何度アタックしても、手の届かないマダムが映っているんだろうか。
「マダム、すごく魅力的な方なんだろうね。お誕生日でいくつになるの?」
「52かな」
「ご……?」
聞き返しかけた時、源二郎の名が呼ばれた。
私も反射的に立ちあがったものの「一人で大丈夫」と制されて、おとなしく腰を下ろす。確かに調書の聞き取りに同席したところで、何の助けにもなれない。むしろ足手まといになるだろう。
「ありがとう」
源二郎はわずかにほほ笑むと、しっかりした足取りで奥の部屋に消えた。
残された私も椅子に座り直し、ピンと背筋を伸ばした。
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ギヨームの女友達が泊まるという夜がやってくる。次回、いよいよ最終回……!
<新刊紹介>
『燃える息』
パリュスあや子 ¥1705(税込)
彼は私を、彼女は僕を、止められないーー
傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)
依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)
現代人の約七割が、依存症!?
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!
撮影・文/パリュスあや子
第1回「私たち、付き合ってるのかな?」>>
第2回「カワイソウなガイコク人を助けてくれる友達が欲しい」>>
第3回「したあとは、煙草、吸いたいんじゃない?」>>
第4回「「パリに何しにきた? 恋人探しか?」」>>
第5回「私は踊り方なんて知らない」>>
第6回「「外国人向けおしゃべりモード」」>>
第7回「女友達を泊めるって? 男女のルームシェアも珍しくないパリの友達と恋人の境界線」>>
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