――長い時間をかけて準備や撮影をされていたNetflixの『新聞記者』が配信され、視聴者数の上位にランクインしています。米倉さんご自身は完成作をご覧になったときは、どのような感想を持ちましたか?

私のお芝居のことはさておき、ものすごく質の高いドラマになっていると思いました。私が演じた新聞記者の松田、綾野剛さんが演じた組織に翻弄される官僚、横浜流星さんが演じた新聞配達をしながら就職活動をしている大学生、それぞれに立場や思いや苦労があって、自分に降りかかってくることをちゃんと受け止めようとしている。
みんなが自分なりの答えを出すために、背中を押してあげるドラマになっているんです。自分が出ていないシーンで涙することもたくさんあって、多くの方にぜひ観てほしいドラマになっています。

 

――藤井監督は粘り強い演出をされることで知られていますよね。米倉さんも撮影の初日に15回以上テイクを重ねたとうかがいました。

初日だけではなくて、毎日です。クランクインした日はきっと最初だけなのだろうと思ったら、違いました。
『ドクターX』でももちろん「もうちょっとこうしてみようか」みたいなものはありますが、今回のようにテイクを重ねることはないんですね。何度もやっているうちにだんだんどのお芝居がいいのかわからなくなってきましたが、それにも慣れました。あとは耐えるのみ(笑)。

監督と共に真剣にモニターする米倉さん

私は消極的で人見知りなところがあるので、「でも」とは言わずにやっていましたし、それは『シカゴ』に挑戦したときも同じです。ブロードウェイでは聞いているだけじゃ進まないこともあるなと思って自分から意見を言うようになったけれど、今回の『新聞記者』は言っても絶対にやることになるから諦めました。
時間が許されるまで粘るのが監督のスタイルなんだ、って。

監督のOKってOKじゃないんですよ(笑)。どんどん撮影をして「はい、じゃあ次!」っていう人じゃない。監督はものすごく勉強しているから、私が何か質問をすると答えがすぐに返ってくるんです。
思いつきで演出しているわけじゃないことはわかっていましたし、完成した作品を観て、やっぱりこの監督はすごい! と思いましたね。

ーー藤井監督の演出で印象的だったことを教えてください。

心情面のことや言葉選びについて、よく話してくれました。
「相手がこう言ってきたときに、松田だったらどう考えるんですかね。僕はこう思うんですけど……」ってボソボソ言うんですよ。監督の声は小さいし、抑えた演技を求められるし、たまには大きい声出した〜い! ってなっちゃって(笑)。

舞台となる新聞社は映画版に引き続き東京新聞でロケ

ダメだとわかっていながら、一回自分がやりたいように思いっきり大きな声を出してやってみたら、監督が「もう少し抑えてください。松田のその気持ちはとても大事なんですけど、それを体じゃなくて思いとして伝えてほしいんです」っていつものように小さな声で演出してくれました。

そんなことの繰り返しだったから、あまりにも悔しくて涙が出てきたことがあったんです。そしたら「今の涙がすごく好きだったので、あと3回くらいお願いします」って言うんですよ。
あと1回ならまだしも、3回ってなんですか⁉︎ みたいな(笑)。

今まで出会ったことのないタイプの監督ですが、学生時代に本格的に剣道をやっていた体育会系の人なので、基本的なところで自分と通じるものがあるのかもしれません。

――観る前は、主人公は力強く声を上げる新聞記者なのかなとイメージしていたんです。でも松田からは、他者の心の痛みを理解して、愛情深く寄り添う人という印象を受けました。

真実を追い求めながら、何よりも“声なき声”を届けることが自分の役割であり、葛藤を抱えている。そういうところを大事にしながら演じたつもりです。
でもやっぱり本当に、監督が抑えた演技を求めてくれたからこそできたキャラクターだと思いますね。過去にはよく動きすぎだと言われていましたし、普通に話しているだけで「マイクが破裂します」って(笑)。

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【メイキング写真】伝わる現場の緊張感
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