擦り切れるほど聞いた、歌詞カードのないカセットテープ


転校生時代は、そもそも人間関係に悩むということがありませんでした。そういう悩みが普通は出てくる頃にはもう転校なのです。当時は自覚がありませんでしたが、人間関係や環境がリセットされるのが当たり前になると、長続きさせる努力をする必要がないし、経験もない。

そんな私が、その後の人生でたった一つ、大袈裟でなくたったひとつだけ(笑)、ものすごく好きになるモノと出会ったのは、小3のときでした。

 

当時ロンドンに住んでおり、ウエストエンドではミュージカル『レ・ミゼラブル』の、のちに35年におよぶロングランがスタート。現地の女子校に通っていたのですが、クラスメートがレミゼの『On My Own』を皆で口ずさんでいました。ロンドンって、素敵なところですよね! ミュージカルがそんな風に深く人々に根付いているんです!

 

話題のミュージカルの噂は芸術に特に興味があるわけではなかった両親にも届いていて、私を連れて行ってくれました。

初めて見た運命のミュージカル、『レ・ミゼラブル』。実は、よくわかりませんでした(笑)。なんせ英語でミュージカル、原作も知らない状態なので、すべてを聞き取るのが難しい。舞台はフランス革命だし、テーマも重厚。半分くらいしか聞き取れなかったと思います。それでも、圧巻の世界観、舞台装置、役者の歌声、なにより本物の劇場の雰囲気。両親に頼み、後日カセットテープを買ってもらいました。

カセットテープっていうところがポイントで、あの小さなケースに、レミゼの歌詞を封入することができないから歌詞カードがないんです。ひたすら舞台全編が録音されていて。私は、それを毎日毎日、繰り返し繰り返し聞きました。なんて言ってるんだろう? この凄い歌は何を訴えているんだろう? 

それが私の、30年におよぶミュージカルオタクへの大いなる一歩でした。