地球の色に疑問を持たないのは「思考力のない人」?


結局のところ思考力のある人とはどのような人なのか? その答えを導く前に、池上さんは「思考力のない人」について説明しています。引き合いに出したのは、地球の色が「青い」という、至極当然と思われている事象でした。

「人間の網膜を通して地球を宇宙から見ると『青かった』にすぎません。人間以外の動物は、そもそも色の見え方が違っています。牛や馬はモノクロの景色を見ているような状態だと言われていますし、犬や猫は赤と青の違いくらいしか識別できないと言われています。やはり『真実の地球の色』は、神様にしかわからないということかもしれません。

これを踏まえれば、『思考力のない人』とは、『真実や正解が必ずあると思い込む人』、そして『他者の言ったことを、そのままただひたすら真に受けてしまう人』と考えることができるかもしれません」

 

正解のない問いを自分でどう考えるかが重要


その対極にあるのが「思考力のある人」だとすると、さしずめ「目の前の事象を常に疑っている人」となるでしょう。池上さんの目を通すとこのような人物像になります。

「『思考力のある人』とは、『私たち人間は、真実になんか到達できない』という限界を知った上で、自分なりに問いを立て、少しでも客観的事実を積み重ねて真実に近づこうと考える努力をしている人だと言えます。

 

つまり何ごとも、少しでも疑問に思うことがあれば、『本当なのかな?』『どうしてこういうことを言うのかな?』と、一歩立ち止まって、自分の頭で考えることができる人が、思考力のある人だということです」

これを踏まえ、池上さんは「思考力」というものをこのように定義づけています。

「私たちは学校で『正解のある問い』について学びますが、社会に出たときに正解のない問いを自分でどう考えるか。事実を集め、きっと真実はこうではないかなと推測する力、それこそが思考力です」


著者プロフィール
池上 彰(いけがみ・あきら)さん:
ジャーナリスト。1950年、長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道記者としてさまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題などを担当する。1989年、ニュース番組のキャスターに起用され、1994年からは11年にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年よりフリーランスのジャーナリストとして、執筆活動を続けながら、テレビ番組などでニュースをわかりやすく解説し、幅広い人気を得ている。また、9つの大学で教鞭をとる。『社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?』(講談社+α新書)、『なんのために学ぶのか』(SB新書)、『知らないと恥をかく世界の大問題12 世界のリーダー、決断の行方』(角川新書)など著書多数。

『社会に出るあなたに伝えたい なぜ、いま思考力が必要なのか?』
著者:池上 彰 講談社 990円(税込)

ニュース解説で人気の池上彰さんが、自分の頭で考える力=「思考力」の重要性を説きつつ、その鍛え方をわかりやすく説明します。先行き不透明ないまの時代に必要とされる「しなやかな生き方」のヒントをくれる一冊です。



構成/さくま健太