「じゃあ訊くけど……ここで、彼が頭を下げて戻ってきたとして、里香、許せるの? 1回や2回の過ち、とかじゃなくて不倫は数年に及んでるってことでしょ? 里香と別れたからって慶介さんがその女とうまくいくとは思わないけど、もうそんなことどうでもいいよね。これは慶介さんと里香の問題だもの。里香がこの先どうしたいかに集中したほうがいい」
「許せるかどうかは、わからないんだけど……。でも、彼なりに、少しは話し合おうとしてはいるみたい。年下でプライドが高いとこあるから、切り出せないのかも」
「え、そうなの!? 謝りたいとか、何か言ってきた?」
夏美は話の展開が予想外だったのか、色めきたった様子で背筋を伸ばした。
「うん、私が仕事に出てる間に、部屋に戻ってきたみたいなんだけど、部屋を片付けてあったし、一応高級食パンが置いてあった。彼なりの反省の気持ちなのかなって」
「いやいや、食パンて。女との朝ごはんに買ってきて、忘れてっただけじゃないの? だいたいほんとに話をするつもりがあったら夏美がいない間にこそこそ戻って出ていく、とかないでしょ。片付けだって、本格的な別居のために荷物を取りに来たんじゃないの?」
夏美は思い切り眉をひそめて、それから心配そうに里香の肩に手をかけた。
「里香、大丈夫? ちゃんと眠れてる?」
「大丈夫。独りのベッドって、静かで悲しいくらいよく眠れるのよ」
里香はできるだけ痛々しく見えないようにおどけて笑うと、コーヒーをゆっくりと飲み干した。
サレ妻の心の叫び
慶介へ
話すと感情的になってしまいそうだから、メールにします。
この前は、急に話を始めてごめん。
じつは数年前から、あなたが浮気をしていることは知っていました。でも、いつか帰ってくるだろうと思って、見て見ないフリをしていたの。
浮かれている若い女の子に張り合っても勝てることなんて何もないと思ったから。
お互いに何の責任も負っていない関係はきっと居心地がいいよね。非日常の快楽と、こちらの現実を切り取って比べられても、私に勝ち目なんかあるはずもないもの。
でも、そんなことをしているうちに数年が経ってしまいました。
慶介はこの先は、誰と、退屈で永くて平凡な日常を生きていこうと思っていますか?
言い訳も、謝罪も、不要です。
ただ、そのことだけ、きかせてください。
里香
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