外見や身体的特徴で人を判断し、揶揄する「ルッキズム」。それが当たり前のように存在する社会を変える動きが今、広がっています。例えば日本で根強いのは「痩せていて若い美人がいい」という価値観ですが、これもルッキズムに他なりません。

『ブスなんて言わないで』は、ルッキズムで人生を大きく変えられてしまった女性の物語です。

出勤時はもちろん仕事中も帽子・メガネ・マスクの3点セットを装着し、外さないまま帰宅する一人の女性。

 

自宅に戻るとやっと3点セットを外し、一息つく彼女は本作の主人公・山井知子。外でなるべく顔を隠して生きているその理由とは。

 

床に落ちたパンを食べさせられたり、頭から水をかけられたり壮絶ないじめのなかで、知子が忘れられないのは彼女の存在でした。

 

あの女には負けたくない、と学校を休まず通っていた知子でしたが、心は限界を超えていました。ある時、息ができなくなり突然倒れてから、二度と学校に行けなくなり、ずっと顔を隠して生きるようになったのです。

 

これ以上 誰かに「ブス」って言われたら
心が壊れてしまいそう

高校卒業後に一人で上京し、なるべく他人と顔を合わせなくていいバイトをしていました。最低賃金で金銭的に厳しく、友人もいない生活を送る知子。ですが、一筋の希望がありました。

 

ルッキズムに関する本を読んで、自分のトラウマと向き合い、「明日はメガネなしで出勤してみようかな」と変わろうとしていた彼女は、翌日、ある記事を見つけます。

 

白根梨花は美容研究家として成功し、反ルッキズムの活動家として活躍しているようでした。しかも、昨晩読んだ記事も彼女が執筆したもの。せっかく前向きになろうとしていたのに⋯⋯ 何回、人の人生をぶち壊せば気がすむの。怒りがこみ上げた知子はとんでもないことを思いつき、実行しようと試みます。

いじめられっ子の復讐もの? と思いきや、2話で予想外の展開となる本作。3話では「ブス」と呼ばれてきた側の地獄だけでなく、「美人」と言われ続けた側の地獄が梨花視点で語られはじめます。

梨花の母親が、美人に対する周囲の目について説明するシーンはよくぞ言語化してくれた!と感動します。

世間は みーんな美人のことが気になって気になって仕方ないの
気になるってどういう事かわかる?

つい「考えてしまう」って事

 

美人は勘違いをされ続ける。学生時代のいじめは知子視点だと、知子が被害者で、梨花が加害者に見えていました。けれど梨花視点では、知子も「加害者」となっていました。どちらも被害者で、加害者。傷ついたと言いつつ、自分も誰かを踏みつけていたというグロテスクな現実を見せつけてきます。

話を追ううち、ルッキズムが社会を覆う膜のように存在し、ほとんどの女性がすっぽり取り込まれていることに気づきゾッとするのです。

そもそも、「ブス」や「美人」とはなんなのでしょう。黄金比という概念はあれど、そこにあてはまる人が必ずしも「美人」と呼ばれるわけでもなく、髪型やメガネ、体型から受ける印象で「ブス」認定されてきた人もいるはず。相対的なものでしかないのです。

知子も梨花も「勝手にイメージを押し付けられる」ことで苦しんできました。誰かにとっての美人は、誰かにとってのブスなのかも。その判断は、本当に必要なのでしょうか。

「ブス」「美人」問題のほかにも、男性へ向けられるルッキズムやプラスサイズモデルの努力、容姿イジリを封じられた女芸人などの問題提起が次々と出てくる本作。社会を覆うルッキズムを変えることの困難さについて考えずにはいられません。でも、私たちはこれを変えなくていけないな、とも思うのです。

 

【漫画】『ブスなんて言わないで』第1話を試し読み!
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『ブスなんて言わないで』
とある アラ子 (著)  講談社

ルッキズムは、彼女たちがぶっ潰す!
『美人が婚活してみたら』の著者が描く、反ルッキズム×シスターフッドの物語! 「ブス」と言われ、学生時代にいじめられていた知子。大人になった彼女は、自分をいじめていた“美人”の同級生・梨花が美容家として成功していることを知り、怒りに震える。知子は、梨花への復讐を決意する――。連載開始直後からSNSで大反響の話題作、待望の第1巻!



作者プロフィール 

とある アラ子
著作『美人が婚活してみたら』(小学館クリエイティブ)で人気を博す。同作は漫画アプリ「Vコミ」で累計1000万PVを突破し、映画化もされた。『わたしはあの子と絶対ちがうの』(イースト・プレス)『あなたよりちょっとマシな私でいたい。』(晋遊舎)『100日後に会社を辞めるOL』が既刊。現在は「めちゃコミック」で『愛する人のソレじゃなくても』、漫画サイト「&Sofa」では『ブスなんて言わないで』をそれぞれ連載中。
Twitterアカウント:@unmeichimai


構成/大槻由実子
編集/佐野倫子

 


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