介護対象者1人につき通算93日まで休める介護休業制度


奈緒さんの会社の仲間たちのように、介護を理由に会社を去る方は年々増加し、2007年から2017年の10年間で2倍にもなりました。仕事と介護を両立させるには、子育てと同じように当然さまざまなサポートが必要となります。

国が定める「育児・介護休業法」には、仕事と介護を両立させるための「介護休業制度」があります。この制度には、理恵子さんが利用した「介護休業(通算93日まで休業可)」のほか、1日または時間単位で取得できる介護休暇や短時間勤務等の措置、時間外労働・深夜業の制限も設けられています。

実は介護は、長い休暇はそれほど必要ではありません。実際は、それよりも急な発熱や通院などで休まざるを得なくなることが多いのです。そのため、短時間や短期間の休暇が取りやすいかどうかという点は、確認しておきたいところです。

また、大手企業の中には法律以上に制度が充実しているところもあります。介護によって仕事がままならなくなる前に、まずは勤め先にどのような介護支援制度や相談先があるかを調べてみてください。なお、会社に制度がなかったとしても、要件を満たした労働者の介護休業の申し出を拒否したり、不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

 

年収ダウンの可能性がある介護離職


介護離職後は、仮に再就職できたとしても年収ダウンは避けられません。公益財団法人生命保険文化センターが行った「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に要した月々の費用は平均8.3万円、介護期間は平均5年1ヶ月という結果が出ています。

たとえば年収500万円の方が3年間離職すると、1500万円の収入を失い、その上再就職して年収が400万円になってしまったら、生涯年収は相当下がってしまいます。
 

介護離職の背景


厚生労働省が行った「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」では、介護離職の理由で最も多かったのは「仕事と手助・介護の両立が難しい職場だったため」で、次いで「自分の心身の健康状態が悪化したため」が多くなっています。

他に理由として挙げられたいくつかの項目を含めて、その理由を「他人思考」と「自分思考」に分けてみました。

他人思考は親や会社が原因だという考え方で、自分思考は自分がそうしたい、自分を守りたいといった自分を理由にした考え方。

〜他人思考〜
・仕事との両立が難しい職場だったため
・施設へ入所できず(または在宅介護サービスを利用できず)負担が増えたため
・自分自身で手助・介護すると介護費用を軽減できるため
・家族や親族からの理解・協力が十分に得られなかったため
・家族や親族、要介護者が手助・介護に専念することを希望したため

〜自分思考〜
・自分の心身の健康状態が悪化したため
・自身の希望として手助・介護に専念したかったため
・手助・介護を機に辞めたが理由は直接関係ない

介護離職するのであれば、理由が自分思考であることが後悔しないポイントだと思います。「自分自身で介護するとサービスの利用料が軽減できる」などというのは一見自分思考的ですが、「親のお金がないから」などの深い部分に「親のため」という意識があります。

なお、先ほどのアンケート調査によると、離職後は経済面の負担が増したという方が74.9%います。これは当然の結果ですが、残念ながら精神面の負担が増した方は64.9%、肉体面では56.5%という数字が出ているのです。

個人によって辞める理由はさまざまなので、介護離職を真っ向から否定することはできません。ですが介護離職に至った理由が何かによって、やりきったと思えるか、逆にこんなはずではなかったと思うか、その後の自身の気持ちにも違いが出るのではないでしょうか。

介護においては、どんな選択をするのかということよりも、自分自身が納得して決めることが何より大切です。
 


写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 

 


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