高齢者をどんどん外に連れ出そう

 

――連休では実家に帰省する人も増えてきましたね。対策をしながらも、みんなでワイワイ集まってご飯を食べたり会話したりするのは、高齢者のフレイル予防にも良いということですね。

長尾 社会的孤立を指す「ソーシャルフレイル」の解消にもなりますしね。コロナ禍はデイサービスもそうですし、趣味の集まりもお休みになるなど、高齢者の社会的な関わり合いの場が失われました。話し相手がいない、出かける用事がないといった「家に閉じこもる生活」では、運動機能も認知機能も低下して当然です。ですからこれからは、なるべく人と会う機会を作ってほしいんですね。

 

――各家庭の事情もあるので、なかなか自分から「会いませんか」と誘いづらいケースも多そうですが、先生はどうお考えになりますか?

長尾 「外出がまだまだ怖い」という人もいらっしゃいますからね。お誘いすることが難しくても、もしお誘いされることがあれば、ぜひ人との交流の場に積極的に出かけていただきたいと思っています。「人と会う」=「悪」という強烈なイメージがコロナ禍に根付いてしまいましたが、このままでは高齢者の孤独が加速して、アルコール依存症などのリスクも高めることになります。介護をされている方やご家族は、「危ないから出かけちゃだめ!」と行動を抑制するのではなく、十分な感染対策をしながら、高齢者の外出を応援・サポートする立場に回っていただけたら嬉しいですね。

 

――先生のお話を聞いて、高齢者を1つのリスクから守るだけでなく、フレイルという大きなリスクを予防するためにバランスよく考えることが大事なのだと感じました。

長尾 様々なフレイルのリスク、さらにストレスも加わったこの2年半は、どう頑張っても取り戻せない時間です。ですが、そこで諦めてしまえばどんどん悪化していくだけ。今の状態でブレーキをかける、そのためにできることはたくさんあるので、高齢者だけでなく介護者や一緒に住むご家族にも実践していただきたいと思います。人間の長い歴史を見ても、「移動」することは主本能のひとつ。移動、すなわち歩くことは、医学的にも細胞性免疫や自然免疫が活性化するとされていますし、運動は良質な睡眠にもつながります。テクノロジーのおかげでどんどん便利になり、「家の中でなんでも完結できる」時代になりましたが、ニューノーマル時代こそ「積極的に家を出る・移動する」ことが、フレイル防止に役立つと私は考えています。

『完全図解 介護に必要な 医療と薬の全知識(介護ライブラリー)』
編著:長尾和宏、三好春樹 編集協力:東田 勉 講談社 1980円(税込)

高齢者のお世話にあたる介護者が悩み、迷い、戸惑いがちな疑問にすべて回答! 救急車を呼ぶべきか、少し様子を見るべきか? 家で介護するか、施設にお願いするか、なにをもとに考える? など、要介護となった高齢者の健康を保つための介護と医療の知識をイラストと図解で解説します。さらに、穏やかな最後を迎える方法、アップデートすべき高齢者医療の考え方まで、超高齢化社会の羅針盤となる内容がもりだくさん。高齢者を持つ家族はもちろん、少しでもより良い未来を目指すすべての人に推奨する「介護と医療の新しい教科書」。



イラスト/秋田綾子
構成/金澤英恵