2人で彼を訴えよう。そう提案されたものの……?


「これまでも、何回か浮気されたのに結局戻ってしまった。もう2度と戻りたくないから、ブレーキとして私に千佳さんと彼のラブラブな写真をたくさん送ってほしいと言われました。そして、明日、雅弘さんのご実家に遊びに行く約束をしていたけれど、婚約破棄を説明して慰謝料の相談をしてくる。千佳さんも一緒に行く? と。

私もここまできたら決着をつけたいと考えていました。婚姻届が有効なものであれば、弁護士に相談すれば結婚詐欺や婚約不履行などで訴えられるかも、と。ただ翌日に私が乗り込んでいくのは筋違いに思えたので、私も準備をする、と言いました」

結局、Aさんの場合は式場の予約、両家の挨拶が済んでいたことから100万円が雅弘さんから支払われたと、後日彼女から連絡がありました。千佳さんも知り合いの弁護士に、婚約不履行で慰謝料をとれるとしたらどのくらいになるかを相談します。

婚約は、本人同士が結婚しようと約束をすることで成立します。しかし、実際に裁判で「婚約不履行」と認められるためには、婚約時の現実的なアクションが評価される傾向にあります。例えば婚約指輪、結納、結婚式、同居、性的関係、妊娠、周囲や親族への挨拶と周知などがそれにあたります。

全てを満たしている必要はないそうですが、いくつかの実績があったうえで、婚約不履行として慰謝料を請求することができます。千佳さんをもっとも有利にするはずの記入済みの婚姻届は、なんと浮気騒動で揉め始めた頃に無断で破棄されてしまいました。ここはAさんと同様にプロの力を借りることにした千佳さん。弁護士が代理で交渉し、50万円を受け取りました。

全てが済んで、きっぱりと雅弘さんと別離します。Aさんは悪くないことは分かっていたものの、仲良くするのも妙な話だと思い、最後に挨拶をして連絡先を消し、SNSもフォローを解除、思い出さないように努めたそうです。それでもパートナーに裏切られたショックは大きく、5㎏も痩せ、不眠になり、心療内科にも通うことになりました。

そしてなんとか落ち着いてきた半年後、衝撃の展開が待っていたのです。

 

「街で、なんと偶然に、Aさんに会ったんです。彼女の左手には結婚指輪が。彼女はそれをひらひらと見せて『色々あったんだけど、私、まるっと許して彼と結婚したの』と」

 

彼からもらった100万は新婚旅行に充てた、と笑ったAさん。同じ立場で、味方のような気持ちでいた彼女、何処からどこまでが本音で、どの時点から策略だったのか……千佳さんは絶句したといいます。

今回のケースを伺って、率直に言うと、同居していたときにもう少し早く気づいたり、対処したりできたのでは、という気持ちも否定できません。年上で百戦錬磨の彼の甘言にうまく乗せられて、シビアな対応を怠ってしまいました。

とはいえ、千佳さんは当時30歳だったことを考えると、そのような行動をとるのは口で言うほど簡単ではないのも事実です。

雅弘さんは、おそらく女性関係でゴタゴタすることを究極的には勲章のように思うタイプで、この手の人に変わってくれるかも、と期待するのは禁物です。Aさんが何を思って結婚したのかは定かではありませんが、千佳さんは関係を絶てて幸運だったとも言えます。

しばらくは、彼を信じて努力すれば、結婚したのは自分だったのではないかと考えて苦しんだという千佳さん。しかしそれも、AさんのSNSを見るうちに目が覚めたと言います。Aさんはその後、まるで「誰かに妻であることを誇示するような投稿」を始めました。雅弘さんの女好きが再燃して、いたちごっこが続いているのだろうと千佳さんは力なく笑いました。

お話を伺って、現代はさまざまなことの「境界」があいまいになっていることを痛感しました。現実の生活に欠かせなくなったSNSによって、本来は別物であったはずの人間関係もリンクします。そこでやり取りされた情報は、容易に漏れて現実社会でも証拠として成立し、人生を変えるきっかけになってしまうことも。不利益を被ることのないように、個人がある程度の知識と自分の意志を持つことが重要と言えます。

「彼と付き合ったことで、長い時間を無駄にしてしまったように感じて苦しみました。だけど被害者面をしていても仕方ないんですよね。恥ずかしいけど、その未熟さも含めて、自分だった。これもいい経験だったと言えるようになるために、これから幸せになりたいと、今、シンプルに思っています」

千佳さんがそう遠くない未来、自分らしいパートナーシップを構築できるように、心から応援しています。
 


写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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