脳性まひで足が不自由なため車イス生活を送っている女性が、親に守られていた世界から飛び出し自立してゆく姿を描く『37セカンズ』。第69回ベルリン国際映画祭にてパノラマ部門観客賞とCICAE―国際アートシアター連盟賞をダブル受賞した映画がコミカライズされました。

『37セカンズ』(1) (バンチコミックス)

主人公・ユマは車イス生活を送っています。電車の乗り降りも駅員の手助けがないとできません。23歳になっても母親は心配して駅まで迎えに来ています。

 

母親と二人暮らしで、お風呂も介助されながら、一緒に入ります。そんな彼女は、漫画家の親友のアシスタントをしています。親友から給料をもらっていますが、絵を描くだけでなく、ストーリーを考えているのもユマがメインでした。ユマの描いた漫画は世間に出ているのに、名義は親友で、ユマ自身の存在は完全に隠されている。彼女はゴーストライターだったのです。

 

ある日、仕事場に編集者が訪れます。編集者はサイン会の話をしようとすると、親友はユマに席を外してもらうよう頼みます。親友はこれまでユマがいないところで、アシスタントが障がい者であるのを公表した方が得になると打診されていたのです。

 

サイン会に出ることになったのは当然、親友のみ。ワンピースを着て会場に行ってみたいと母親に頼むと、「ママも一緒に行くんだったら着ていってもいいよ」と言われ、一人で行きたかったユマはあきらめて普段通りの服装で向かいます。電車内で、自分の好きな服装をして、片手間に携帯をいじったりメイクをする他の女の子たちを見て、ユマは思うのです。

「どうして私は⋯⋯」

内緒でこっそり会場に見に行った彼女は、親友のある態度にショックを受けます⋯⋯。

ユマは、自分だけが時間が止まっているかのようで、どこにも行けない不自由さを強く感じています。母親にいつまでも心配され続けて、同年代の女性がしていることを制限される日々。本当は車イスから飛び出してみんなと同じように自由になりたい。その思いが高まり、エロ漫画雑誌の編集部に、自分ひとりで描いた作品の持ち込みをします。その時、彼女は強く言い切るのです。
「自分は脳性まひだけど、足が不自由なだけで絵を描くには問題ない」と。

 

編集長に「作家に経験がないといい作品は作れない」と言われたのをきっかけに、ユマの心は動かされるのです。

本作は、社会から隠されてきた身体障がい者の性にフォーカスします。ユマは「足が不自由なだけ」「普通の人と変わらないです」と言い続けます。なんとか前に進もうとする彼女は、自分と同じ車イスの男性を相手にする風俗嬢・舞と出会います。障がい者の性について、健常者と「変わらないと思ってる」と言う彼女に、ユマはようやく性の悩みや興味を打ち明けられるようになるのです。
ユマを一人の女性として見てくれるのは、編集長と舞だけでした。母親はユマをお風呂に入れてあげていましたが、実はユマは一人でもなんとかシャワーを浴びられるのです。

障がい者から見た世界をリアルに感じられるだけでなく、閉塞感のある環境で生きてきた女性が自立するストーリーでもある本作。母親が作る「完全に安全な世界」から逃れ、自分の望みを叶えようと、時にリスキーな方向へも進むユマ。彼女には、漫画を描く才能があった。その才能を自分のものとして、どう開花させていくのでしょうか。

 

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『37セカンズ』
栗原陽平 (著), HIKARI (著)

貴田ユマ23歳、職業・漫画家アシスタント。脳性まひで車イス生活を送る彼女は、母と二人で暮らしている。漫画家として活躍する幼なじみのさやかのアシスタントをしているが、実際に漫画を描いているのはユマの方で⋯⋯。生きづらい世界を飛び出した時、彼女の目の前に広がった情景とは――!?  国内外の映画祭で受賞多数の傑作映画を漫画化!!


作者プロフィール:
原作:HIKARI
映画監督、本作で日本映画監督協会新人賞を受賞。

漫画:栗原陽平
漫画家、本作が初単行本。
Twitterアカウント:@pokoko0821


©HIKARI 栗原陽平/新潮社 ©37Seconds filmpartners
構成/大槻由実子
編集/坂口彩