撤退戦を援軍ナシで戦おうとする


川内 じりじりと悪化する状況を前提に置いたとき、最も必要なのは、その戦線を受け持つ人が「最後の瞬間まで戦い抜く」体力、精神力を維持することです。そのためには、どうすべきか。普通に考えれば「1人で何もかもやろうとせず、組織や社会の力を借りる。人に相談して悩みを分かってもらい、支援を受ける」と、なりますよね。

――はい。厳しい戦況で援軍がない状態は、物理的にも精神的にも厳しいでしょう。

川内 仕事のできるビジネスパーソンが、これを理解できはないはずがない。ですが、子どもは親の状況に冷静に対応できず、なんでも「自分でやってあげる」ことに執着しがちなんです。

――「介護は身内の問題だから、他人の世話になりたくない」という考えや、「親は最後の安全基地」という心理の影響もありそうですね。

 

「介護の共倒れ」は、実際にたくさん起こっている

写真:Shutterstock

川内 それにしたって、「まさか」ですよね。ロジカルで優秀な人なら、そこは合理的に割り切れそうだけど、と。でも、誰もが知る大手企業の幹部でバリバリ仕事をしている人が、冷静さを失って、自ら介護福祉士などの資格を取ろうと勉強し始めたのを、僕は何人も見ています。

自分で介護を抱え込めば、当然、仕事に時間を使えなくなり、結果が出なくなります。そこで冷静さを取り戻すか、といえば逆で「中途半端だから親の状況がよくならないんだ」と、仕事のほうを辞めてしまって「介護離職」に至り、ますます無理を重ねて親の世話をして、ついに倒れてしまう。介護している人が先に倒れてしまえば、親も倒れてしまいます。「介護の共倒れ」は、実際にたくさん起こっている悲劇です。

――冗談じゃない、誰か止めてあげてください。

川内 でも、この暴走も親を大切に思う気持ちからきていることなので、周囲はなかなか止めることができないんですよ。親も、他人の世話を受けることへの不安から子どもを頼りにするようになり、しだいに依存します。子どもはその気持ちに応え、有能ゆえに綿密に計画を立て、自分の時間と健康を犠牲にしても面倒を見てあげようとします。その結果、親がまだ自分でできていたこともやってあげるようになり、本人のできることがどんどん減ってしまうのです。

――あああ。何度聞いてもこの流れは心が痛む。