too late──日本社会はすでに崩壊している

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小林さんはそんな就職氷河期世代にも、「本来ならチャンスがあったタイミングがある」と語ります。それが2007年です。「約677万人という団塊世代の定年退職が始まり、企業は人手不足を補う必要があったからだ。まだ20〜30代前半で若かった就職氷河期世代を企業に呼び込むチャンスがあったはずだ」。しかし、蓋を開けてみるとはそうはなりませんでした。
「回復したのは新卒の就職率に留まり、卒後数年が経った非正社員は置き去りにされた」。

 

その後、フリーター対策や非正規雇用者の支援が打ち立てられるも徐々に下火になり、2008年にはリーマンショックによる激震で、多くの人が職を失う結果に。就職氷河期世代の多くは現在もなお、“上限期間”がある中で働く状況が続いている、と小林さんは伝えます。

本書の中でひときわ印象的だったのが、小林さんが2005年に取材した丹羽宇一郎さん(伊藤忠商事会長・当時)へのインタビューでした。その中で丹羽さんは、中間層の崩壊について次のように語っています。

富(所得)の2極分化で中間層が崩壊する。中間層が強いことで成り立ってきた日本の技術力の良さを失わせ、日本経済に非常に大きな影響を与えることになる。中間層の没落により、モノ作りの力がなくなる。同じ労働者のなかで「私は正社員、あなたはフリーター」という序列ができ、貧富の差が拡大しては、社会的な亀裂が生まれてしまう。

戦後の日本は差別をなくし、平等な社会を築き、強い経済を作り上げたのに、今はその強さを失っている。雇用や所得の2極分化が教育の崩壊をもたらし、若い人が将来の希望を失う。そして少子化も加速する。10〜15年たつと崩壊し始めた社会構造が明確に姿を現す。その時になって気づいても「too late」だ。

企業はコスト競争力を高め、人件費や社会保障負担を削減するためにフリーターや派遣社員を増やしているが、長い目でみると日本の企業社会を歪(いびつ)なものにしてしまう。非正社員の増加は、消費を弱め、産業を弱めていく。

若者が明日どうやってご飯を食べるかという状況にあっては、天下国家は語れない。人のため、社会のため、国のために仕事をしようという人が減っていく。

――週刊「エコノミスト」2005年1月4日号、ワイドインタビュー「問答有用」のコーナーより(本書P172〜173)

小林さんもこのインタビューを振り返り、現在地から社会を見渡して、次のように語ります。

「2005年の丹羽さんのインタビューから17年が経った。丹羽さんはその時点で、10〜15年経って崩壊し始めた社会構造が明確に姿を現し、その時になって気づいても『too late』だ、と言っていたが、その時がもう過ぎている。2021年で、35〜49歳のなかに約545万人もの非正社員がいて、40代の3人に1人が非正社員なのだ。もはや誰も解決の糸口を掴めないくらい、事態は深刻になっている」