いつか見たものの「意味」


「わあ~神社の結婚式って初めてだけど、素敵ねえ……!」

私は思わずうっとりと、花嫁さんの姿にため息をついた。従兄弟の芳雄は緊張で固くなっていたが、新婦さんの白無垢に綿帽子は、当日まで面識がなかった私まで涙が出るほど美しい。

「うふふ、莉子ちゃんもきっともうすぐよね」

「アハハ、振られたばっかりなんですけどね……」

おばあちゃんたちはすでに親族席についていた。庭先に、花嫁行列の写真を撮りに来た千春ちゃんと私は、おしゃべりしながら社の中に戻る。

ふと、このような素敵な結婚式を見たとき、「いつか」お嫁さんになったときの参考にしようと考えている自分に気がつく。だからこそ、素直にお祝いもできるし、感激も倍増しているような気がした。

……独身の千春ちゃんは、淋しいと思ったことはないのかな?

 

そっと隣の彼女の顔を盗み見る。今日は年配の親族たちは着物を着ていたから、私の知っている千春ちゃんと雰囲気が違う。結婚式によくある留袖、なのだけれど、千春ちゃんが着ているとやけに上等な着物に見えるのは何故だろう。これが着こなしというものだろうか。

 

ふと、彼女が若い頃、芸妓さんとしてお座敷に出ていたこともあるという話を思い出した。このあたりは古い城下町で、今でもまだ華やかなお座敷の習慣が残っている数少ない地域なのだ。この話をきいたのは、おばあちゃんからだったか、それともおじいちゃんだった……?

「そうそう、お祝いをお渡ししましょうね」

一緒に控室に戻った千春ちゃんは、赤い絞りの袱紗に包まれた御祝儀袋を取り出して、芳雄のお母さんに差し出している。

すこし前かがみになって、袱紗を左の掌に載せているその姿を、私がかつてどこかで見た。着物姿……? お正月にどこかで?

「莉子、千春、こっちだ」

神殿の親族席から、おじいちゃんが手招きしている。千春ちゃんは「はあい、高俊さん、今」と狎れた仕草で片手を少しだけ上げて応える。

……あの時。「幽霊」が工場を訪れたとき。

おじいちゃんと千春ちゃんは、何処にいたんだろう。

「莉子ちゃんも、きっと素敵な花嫁さんになるわねえ。羨ましいな」

千春ちゃんがおっとりと微笑む。独身を貫いた千春ちゃん。病弱なおばあちゃんに代わって、幼かった私や、おじいちゃんのお世話をこまめにしてくれていた千春ちゃん。

「結婚は、好きな人ができたら、すぐにしたほうがいいわよ。『機会』を逃すと、私みたいになっちゃうかもしれないし」

……そのとき私は、結婚というものが恐ろしいな、と何となく思った。理由は、わからない。

結婚式は、今、盛大に始まった。
 

【第14話予告】
結婚パーティに落ちていた「怪文書」。それを拾った幹事の幼馴染3人は……?

春の宵、ちょっと怖いシーンを覗いてみましょう…。
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イラスト/Semo
構成/山本理沙

 

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