超高齢化社会を迎える日本で、子どもの世代に何を残すか考え続ける


——松山さん自身は、この作品を通して意識が変わった部分はありますか?

松山:スイスやカナダでは安楽死・尊厳死が合法化されていて、つまり死ぬ権利が認められているわけですよね。それが世界的に広がっていくのか、それとも限定された地域だけなのか……すごく気になりますね。これから超高齢化社会を迎える日本は、元気に働くことができない高齢者を支えるために若者が大きな負担を背負うことになるかもしれません。そうなったときに、自分だったらどうするのか? 若い世代に、何を残すべきなのか? すぐに明確な答えが出せる問題ではないですが、僕にも子どもがいるからこそ、これからの日本がどうあるべきなのかを考え続けていきたいと思いますね。

 

——介護の現場では、真面目に向き合っている人ほど、頑張りすぎてしまって途中で燃え尽きてしまうこともあるようです。それは他の仕事にも通じることだと思いますが、松山さんが自分自身の心をケアするために心がけていることを教えてください。

松山:24時間の中で、仕事だけに頭と時間を使っていればベストパフォーマンスが披露できるわけじゃないですよね。僕も自分にとって最適なバランスを探してきたのですが、最近は人生で俳優の仕事に費やす時間は2割くらいがいいと思うようになりました。以前は自分の出演作品を見返して課題を探すとか、撮影現場にいる以外の時間も自主的にいろんなことをやっていたのですが、じっくり考えて「必要じゃない」と思うことはどんどん削ぎ落としています。過度な宿題を出して自分を追い込むのではなく、精神的に余裕を持てるような時間の使い方をしたほうが、結果的に本番での集中力が上がるんです。

 

——20代の頃に「どういう死に方をしたいか?」というテーマと向き合ってきて、現時点ではどんな理想を描いていますか?

松山:やっぱり目指すのは老衰で亡くなることですよね。そのためにはストレスを抱えすぎたらいけないし、無理をしたらいけないし、健康第一に穏やかに生きていくのが一番。今後も焦らず生きていきたいです。

 

——今は仕事2割がちょうどいいわけですね。

松山:そうですね。オードリーの春日さんが、漫才の中で「お笑いはバイト。本業は春日」だと言っていたんですよ。その考え方が本当に素敵だと、僕もそうでありたいと思っています。本業は自分自身であって、俳優業を含めいろんなことは副業でしかない。そんな意識を持つとものすごくラクになれますね。
    

<映画紹介>
『ロストケア』
3月24日(金)全国ロードショー

©2023「ロストケア」製作委員会 配給:東京テアトル 日活

作家・葉真中顕の小説『ロスト・ケア』をもとに、『そして、バトンは渡された』の前田哲が監督、「四月は君の嘘」の龍居由佳里が前田監督と共同で脚本を手がけた。ある早朝、民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。死んだ所長が勤める介護センターの介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)が犯人として浮上するが、彼は介護家族からも慕われる心優しい青年だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が働く介護センターで老人の死亡率が異様に高いことを突き止める。取調室で斯波は多くの老人の命を奪ったことを認めるが、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」であると主張する。2023年3月24日公開。

出演:松山ケンイチ 長澤まさみ
鈴鹿央士 坂井真紀 戸田菜穂 峯村リエ 加藤菜津 やす(ずん) 岩谷健司 井上 肇
綾戸智恵 梶原 善 藤田弓子/柄本 明
原作:葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊)
監督:前田 哲 脚本:龍居由佳里 前田 哲
主題歌:森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック)
音楽:原 摩利彦
制作プロダクション:日活 ドラゴンフライ
公式サイト:lost-care.com


撮影/大門徹
取材・文/浅原聡
構成/坂口彩