わかっているつもりでいることを改めて自己点検してみよう


アツミ:「おうち性教育」をするにあたってなにかポイントはありますか?

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村瀬:私が性の学びを進めるうえで、意識している3つのポイントがあります。それは「多様性」「科学性」「関係性」です。

アツミ:「多様性」っていうのは、人はそれぞれ違う、ってことですよね。

村瀬:はい。性別や性自認、性的指向など個人の属性の範囲の問題ではなく、「私がそう思うんだから相手もそうだろう」と考えてしまいがちですが、親子であっても他人。考えが異なるという前提が大切ということです。

 

坂口:よく「自分がされて嫌なことは相手にもしない」って言いますが、私が良かれと思っても、相手が嫌な場合もあるってことですよね。

アツミ:自分が普通と思っていることも、相手の普通じゃないこともある、っていうのもありそうですね。

村瀬:「関係性」は「性は自分だけの問題ではない」ということ。セルフプレジャーという自分だけで行う性行為もありますが、基本的に性行為は「相手がどんなふうに感じているか」を考えないといけません。自分と同じように、相手にも性の自己決定権がある。お互いがそれぞれのあり方を決め、相手のそれを侵害してはいけません。

アツミ:「セルフプレジャー」は、いわゆる「マスターベーション」のことですよね。

村瀬:そうです。「マスターベーション」という言葉は、「手で汚す」というラテン語に由来しているんですよね。性に対するマイナスイメージを持ってほしくないので、私は「セルフプレジャー」と呼んでいます。決して悪いことではないので。

アツミ:了解しました。そして最後は「科学性」ですね。

村瀬:「科学性」は、いい加減な情報を思い込むのではなく、科学的な根拠のある見方、考え方をすること。そのためには勉強も必要です。

坂口:ミモレ読者に多い40~50代の人たちは、古い性の価値観を知らず知らずに刷り込まれている部分も多いと思うんです。自分の中の偏見に気づくことって、できないことではないけれど、ふとした時につい出てしまうこともあると思います。下の世代に引き継がないためにも、勉強は大事ですね。

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村瀬:「自分はちゃんと分かってるんだろうか」という自己点検は必要ですよね。わかっているつもりでいることに、きちんとした科学的根拠があるのか? とか。自己反省するようなこともあるかもしれません。

アツミ:この3つのポイントって、自分の勉強だけでなく、子供との対話においても大事なポイントのような気がします。

村瀬:そのうえで、子供の疑問や心配事をきちんと受け止めてほしいですね。大人の考え方で「おかしい」とか「間違ってる」とかじゃなくて、どうしてそういうことを悩んでいるのか、どうしてそういう質問するのか。そういうことを受け止める。

因田:子どもからふいにわからないことや、答えにくいことを聞かれて、ただニヤニヤしてぼやかしたり逆に遮断したり……、戸惑う方も多いですよね。

アツミ:セックスに限りませんよね。同性愛とか、セルフプレジャーとか。うろたえて「そんなこと考えなくていいの!」とか言う人もいそうじゃないですか?

坂口:今どき、そんな風に言う人っているのかなあ。

村瀬:いるいる。押さえつける人とかね、いると思いますよ。本でも繰り返し書いてますが、とにかく子供の言葉に耳を傾けることが大事。「リッスンこそ愛」です。
 

第3回は9月25日公開予定です。

第1回「「生理に無知で悪かった」50年以上前、妻に謝罪したことが原点に。性教育の「草分け」が教える学校教育の現状」>>

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取材・文/渥美志保
構成/坂口彩(編集部)