ずぼらな家人


――貞子~帰ってくるなよ~出てくるなよ~。

いつのまにかあたりは薄暗くなっている。夏休みとは言え、もうすぐ9月。だんだん日が短くなっている。オレはちょっと緊張しながら、雑草の生えた庭を抜き足差し足で横切った。

この家は、数年前まではけっこうキレイな家だった。

おれが小さい頃(まあ今も12歳だけど)は、優しいおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいて、時々公園なんかで会うと飴をくれたり頭をなでてくれたりした。

ところが、ある日2人いっぺんに事故で亡くなってしまった。桃狩りに行くバスが事故で横転したということで、マスコミが近所に取材に来たりもしていた。おれも、父さんも、お葬式に行った。ふたりがいなくなったなんて、信じられなかった。

お葬式を出したのは、初めて見るおばあちゃんの娘、通称『貞子』。……あんまりなあだ名だ。でも、ほんとにあのふたりの子なのか!? とツッコミたくなるほど愛想がなくて、挨拶してもろくに返してくれない、愛想のない女の人だ。40歳くらいなのかな? と思うんだけど、長い黒い髪に隠れてすれ違うときもよく表情が見えない。

 

去年、友達のノブがやっぱりサッカーボールを蹴り入れて、運悪く庭の植木鉢を割ってしまったときは、謝ってるのに怒り狂って追いかけてきたらしい。怖すぎる……。

そんなわけで『貞子』、今日は不在みたいで本当に良かった。

おれはボールを抱えると、またそうっともと来た柵のほうに戻る。恐る恐る縁側のほうを見ると、半分開いたカーテンと、畳のうえに、なにか洗濯物のようなものが投げ出されているのが目に入った。

――だらしないなあ、貞子! シーツもまだ干しっぱなしだし。雨が降ったら濡れちゃうぞ。

一瞬、取り込んでやろうかという考えが浮かんだが、即座に打ち消した。やぶへびっていうやつだ。

おれは無事にミッションを達成すると、道路に出て、家路を急いだ。

 

3年前の記憶


翌朝。おれは朝から性懲りもなくボールを蹴っていた。

今日は学童も休みで、父さんは仕事に行っている。9時になったら図書館か児童館に行って夏休みの宿題でもやるかと、リュックに父さんが作ってくれた弁当と一緒につっこんできた。

――貞子、シーツ取り込んだかな?

めちゃ余計なお世話だとは思ったが、おれは日頃、家では洗濯担当なのでちょっとだけ気になって、道路側に回って再びのぞいてみた。

――あれ? まだ干してある……。昨日は帰ってきてないのか?

ひらひらとはためくシーツが、心無しか少しくすんで見える。昨日とまったく同じに、ズレて洗濯ばさみでとめてあるから、干しっぱなしなんだろう。きっと貞子は適当家事のひとに違いない。取り込んだ服も、床に散らばっていたし……。

首を伸ばしてみると、昨日とまったく同じ服が、縁側近くの床に落ちているのが見える。

あれは……長いスカート?

それを見ているうちに、ふと、3年前のあの衝撃の記憶が呼び覚まされた。

次ページ▶︎ 彼が起こした驚きの行動とは?

夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
▼右にスワイプしてください▼