「あれは、まさか」
――ピンポーン。
おれはとうとう、家の正面に回ってインターホンを鳴らした。しばらく待ってみたが返答はない。
「おはようございます~。あの、すみません、近所の吉本です……」
おれはつぶやいてみたけど、玄関の奥では物音ひとつしなかった。
――やっぱり旅行か。おれ、なにやってんだ……。
いつのまにか蚊に刺されてほっぺがぽつんと膨らんでいる。朝っぱらからこんな他人の家の周りをうろうろしてるからだ、もう図書館にいくか。
……そう思うものの、最後にもう一度、庭のほうにまわると、柵の中に半身をいれて縁側のガラス戸の奥を見た。
昨日とは違う角度で、まじまじと見る。
――あれは、まさか……。
おれは今度こそ全身を滑り込ませて、縁側に駆け寄った。
カーテンの向こう、スカートの先から、細い足が2本出ていた。やっぱり! 人が、倒れている。
「あの、だいじょうぶですか! あの、どっか痛いですか?」
縁側にあがって、ガラスをどんどん叩いて、横にひいてみるが、鍵がかかっているらしくびくともしない。足はぴくりとも動かない。直感的に、寝ているんじゃなくて、昨日からずっと倒れているんだと思った。どうしよう、誰か呼ぶか?
――そうだ、電話!
オレは首からキッズフォンがかかっていることを思い出し、夢中で父さんのボタンを押す。10回近くコールすると、ラッキーなことに父さんが出た。
「お、修平どうした! なんかあった? 父さんちょうど今、休憩で……」
「大変だ、近所の河合さんちで女の人が倒れてる! ほら、河合さんとこの、おばあちゃんの娘かも、顔は見えないけど、たぶん昨日の夜からずっと倒れてるんだ」
「なんだって!? どうしてわかる? お前、いまどこだ?」
「河合さんちの庭! ボール蹴って、取りに来て、気になって。母さんみたいに脳梗塞? とかかも。窓を叩いても、動かないよ。救急車? おれキッズフォンだけど、かけられる?」
父さんは、電話の内容だけで判断していいのか、一瞬、迷ったようだった。
「倒れてるんだな? 出血はない? そこに不審なやつはいないか?」
「血は見えない。でも足は見える。まったく動かないよ」
「よし、じゃあ父さんが今からそっちにいく。お前は、外に出て、家の前にいろ。車で3分でいくから」
そう言うが早いか、電話は切れた。父さんは医者だ。今日はこれから診療所で診察があると思うが、良かった、飛んできてくれるようだ。
――よし、待ってて、もうすぐだからね。
おれは、祈るような気持ちで、玄関にまわり、父さんの到着を首を長くして待った。
夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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