防寒対策

――とりあえず、お水はある、うん。人間、水分と睡眠さえとっていれば結構長く生きられるはず!

落ち着け、落ち着け。私は手をぎゅっとお祈りのように握りしめ、冷静を保とうとした。

問題は、寒いこと。

トイレは小さな通風口から24時間換気されているから、ドアの下の隙間から廊下の空気が入ってくる。息苦しいよりよっぽどいいが、12月、寒いのも死活問題だ。リビングは暖房が入っているけれど、廊下との仕切りにはドアがあり、そこは閉まっているからあまり温かい風は来ない。

もし長丁場になったら、このスウェット上下だと絶対に寒い。

私は吊戸棚を開けて、買い置きのトイレットぺーパーが4個並んでいるのを全部出した。とりあえず、いざとなったらこれを腕や足に巻き付けよう。そうすれば少しは寒さが和らぐはず。

トイレは、この家を買ったときリノベーションしたのでまだ綺麗。タンクのないタイプだったけれど、代わりに小さな手を洗うシンクが付いていて、喉が渇いたらこのお水を飲めばなんとかなる。

「誰か! 誰か聞こえませんか? 402の麻生です、トイレに閉じ込められています! 助けて!」

私はもう一度、通風口に向かって必死に叫んだ。

――もう、どうして1人暮らしなの? ていうか年末年始に誰とも会う約束がないってどういうこと!? ハワイに誘われたときついていけば良かった。でもなあ、円安だし、ボーナスは友達とスキーに行く約束しちゃってたし……。

私はトイレの背面の壁をガンガン蹴り飛ばしながら泣きそうになる。鉄筋の分譲マンションだ、叩いたところでびくともしない。この振動が隣に伝わっている可能性は高くないだろう。

それから、体感で3時間ほどひたすら騒ぎ、絶望して座り込み、再び壁を蹴り、ドアを蹴破ろうと全力を尽くしたけど、状況は何も変わらない。

時計もないから時間が分からないが、もう夕方に近いはず。お腹が空いてたまらない。トイレから出たら簡単にうどんでも作ってお昼にしようと思っていた。つまり、朝トーストとヨーグルトを食べたのが最後。

このままお腹が空いて薄ら寒いなんて辛すぎる。

私はついにトイレットペーパーを手足に巻き付け始めた。……うん、結構あったかい!

 

そのまま床に座りこみ、背中を丸めて床に横になってみる。トイレだけはこまめに掃除するようにという母の言いつけを守っていてよかった。

長期戦になるかもしれない。体を休めよう。

私は絶望的な気持ちのなかで、必死に目を閉じた。