本人のために過保護になりすぎてはいけない

 

——本の中で、例えば弁当のゴミを捨ててあげたりせずに、自分で捨てさせるなど、「アーティストの身の回りのお世話をし過ぎない」というのを何人かのマネージャーさんが意識しているとおっしゃっていました。マネージャーというと、過保護なくらい身の回りのことをするイメージだったので意外でした。

N:俳優ってすごく大変な仕事だと思うけど、カメラの前に立ってないときは普通の人ですよね。私達がやることと、差をつける必要はないんじゃないかなって思ったんです。もちろん、特殊メイクで手が動かせない、ゴミ箱が遠い場所にしかなくて行く途中に一般の方の目に触れてしまうとか、そういうときはマネージャーがやります。

若いときに身につけたことは、その後の人生にも残ってしまうと思うんです。親御さんがちゃんとしつけをされてきたからこそ、事務所に入った途端、身の回りのことを自分でやらなくなってしまうのはもったいない。私たちは親御さんからお預かりしていると思っていますし、ご家族よりも私たちと一緒にいる時間が長くなりますから、その部分の役目は担わなければならないと思っています。

 


「面倒くさい人」に付く方がマネージャーも成長できる

 

——「アーティストとぶつかったり、NGを出される経験は、絶対にあったほうが良い。マネージャーは面倒くさい人に付いたほうが、色々なパターンを学べます。聞き分けのいいアーティストなんて、ある程度キャリアを重ねてから経験すればいい」(本書P268より)とありますが、難しいタイプのアーティストに付いた方が、マネージャーは成長できると感じますか?

N:基本的に自分がこうしてくださいって言ったことに、全部「はい、わかりました」ってやってくれる人は簡単だと思うんですよ。例えば、「今、現場はこうだそうです」と伝えたら「はい、わかりました」以上だと、「なんでそうなんですか」と聞かれないから、マネージャーも何も確認をしない。だから、スキルアップにならないですよね。

面倒くさいっていうのは、例えば「今何分押しだそうです」と伝えたら、「なんで押してるんですか?」って聞いてくる。そう言われたら、マネージャーも原因を追求しに行こうとします。実際、確認してみるとシーンが入れ替わったことや、その理由を知ることができます。

取材をお受けするときも、「なんでこの取材を受けなきゃいけないんですか?」と言ってくるアーティストだったら、一生懸命取材を受ける媒体について調べるじゃないですか。この媒体の読者層は何歳くらいで、まさに今回の作品のターゲットで……みたいなことを説明できる。そうやって、仕事の意味を伝えられるマネージャーになれた方がいいですよね。

意見を言ってくるアーティストは、マネージャーにしたら「ちょっと面倒くさいな」とは思います。でも、言ってくれることはありがたいことなんです。