夫が“家庭内ストーカー”に...


「まず始まったのは、『ごはん攻撃』でした。以前は私もそうでしたが、夫は基本定時で仕事が終わります。すると家でごはんを作って、毎日写真付きで『ごはんできたよ〜待ってるよ〜』とLINEを送ってくるようになったんです。

職種がまったく変わり、状況的にも定時に帰宅するのは絶対に無理で、それは何度も説明したにも関わらず、です。『今日も遅くなるから、ごはんはいらないよ』と言って朝家を出るのに、夜19時頃には毎日同じLINEが届く。いつも監視されているような気がするし、仕事の話をすると黙り込んだり不機嫌になり……夫への対応に困るようになりました」

お話から、妻への歪な執着を感じます。

紗奈さんはこの「ごはん攻撃」に対し、当初は夫に謝ったり、深夜の帰宅後に2度目の夕食をとるなどで対応していたそうですが、その度に「そんな会社ありえない、ブラック企業だよ」「また転職したほうがいい」などと批判されたり、遅い帰宅が続くと機嫌を損ねてしまい、1週間ほど口をきかず無視されることもあったそうです。

夫は明からさまに怒ったり不満を言うのではなく、不機嫌になる・無視をするといった態度で紗奈さんを攻撃していたよう。これはおそらく「不機嫌ハラスメント=フキハラ」の一種で、相手に不快感や威圧感を与え、思い通りに動かしたいという心理の現れだと思います。

「そんな夫を見ていて、『この人は私を心配してるんじゃなく、私が仕事に専念しているのが面白くないんだ』とだんだん気づきました。私も忙しい中いちいち夫に対応するのが億劫になり、あまり反応しなくなると、彼のおかしな行動は増えていきました」

 

紗奈さんが多忙になるほど、夫はなぜだか家事に精を出し、妙に妻の世話を焼きたがるようになっていきました。

手のこんだ食事を作るだけではなく、休日は家をピカピカに掃除をし、紗奈さんの私物まで勝手に整理をする。シャンプーやメイク落としなどの消耗品、生理用品の減り具合までチェックし、勝手に買い揃えては「買っておいてあげたよ」と細かに報告するように。

 

「表面的に見れば、家庭的な“いい夫”かもしれません。私もそう思えたらよかったのですが、でも私はどうしても彼の変貌が怖い、気持ち悪いと思ってしまいました。夫が私のために何かしようとするほど、気持ちが離れて……。私が悪いんでしょうか。実は、いまだによくわからないんです」

たしかに捉え方次第では、家庭的な良い夫。しかしながら、彼の行動はやはり純粋な思いやりというよりも、多忙な妻へプレッシャーをかけていたように感じます。夫本人の自覚の有無はわかりませんが。

「私が買った本や雑誌に気づくと付箋がたくさんついていて、何だろうと思っていると、『紗奈の興味や考えていることを知りたくて僕も読んだんだ』と、ニコニコ内容の解説を始めたり。思わずゾッとしてしまうこともありました」

これがお互い同じテンションならば、仲睦まじい夫婦かもしれません。けれど相手の状況を無視して一方的にプライベートゾーンに立ち入るのは、やはり夫婦であっても不信感が生まれてしまうのだと思います。

「次第に夫は、たびたび会社に迎えに来るようになりました。残業中なのに会社のエントランスに何時間も座っていたり。帰って欲しいとお願いしても『大丈夫だよ』と微笑むだけでいつまでも待っているので、私が大丈夫ではなくなり……。

私が企画を担当しているイベントなどにも急に現れて、その場を楽しむわけでもなく、ただじっと近くにいるんです。何も言いませんが、たぶん構ってほしそうに。夫の存在がどんどんストレスになりました。

極めつけは、私に内緒で出張にこっそりついてきて、ずっと跡をつけていたんです」