主婦同士、秘密のとりきめ


「朋美さん、相談なんだけど……お隣のよしみで、ちょっとしたお願いを聞いてもらえない?」

そんなことを隣家の主婦、紀子さんがもちかけてきたとき、正直言って私は面食らった。

たしかにお互い、専業主婦であることはゴミ捨てのタイミングなどからわかっていたが、挨拶程度に立ち話をするくらい。この町に私と夫が引っ越してきたのは2年前で、知っていることいえばお隣のご主人は単身赴任で不在、40歳くらいの奥さんとかわいいおばあちゃん、そして2匹のワンちゃんがいる、ということくらいだった。

「うちのおばあちゃんね、ちょっとボケてるけど、今のところはホームに入れなくてもなんとかなってるの。介護付き老人ホームって、平気で月に30万とかするから、悩んでて。いくらうちに子どもがいないっていってもねえ……。

それで、私、この先のために時々アルバイトでもしようかなと思ったわけ。ただ、おばあちゃん足が悪くて、留守番はできてもチロたちの散歩はいけないでしょう? それでね、朋美さんにお願いなんだけど、この前の旅行でお願いしたみたいに、合鍵を預けるから、私がいない間に犬をちょっとかまってやってくれないかしら。もちろん御礼は毎回させていただくわ」

 

高級なお菓子を持ってわざわざ来たのはそういうことね、と私は驚きつつも合点がいった。この前、トイレはお散歩まで我慢しているというワンちゃんたちをお散歩に連れていったところ、ものすごく美味しい桃をいただいたことを思い出す。

 


「ワンちゃんは大好きだし、1人でウォーキングに飽きてたから、散歩くらい大歓迎だけど……私なんかに鍵を預けて、お義母さんが心配するんじゃないかしら? 急に入ってきたら驚いちゃうわよ」

「大丈夫! おばあちゃん、足が悪くてお散歩できなくて申し訳ないって言ってるし、私からよく話しておくわ。あの人、犬が苦手なのよ。だからチロたちは2階にいるの。ねえ、朋美さん、私、本当に助かるのよ。5分か10分くらい、ちょっとあの子たちを歩かせてごはんを置いてくれたらもう、一生恩に着るわ」

その大袈裟な口ぶりに、うっすらと、アルバイトじゃないほかの事情があるような気がした。その証拠に、それから週に1、2回、お世話をひきうけた日には毎回充分すぎるほど美味しいお土産やプレゼントをくれる。もし半日パートに出ているんだとしたら、稼いだお金はおおかたお土産に消えているのではないかと思うほどだ。

そしてそのお土産を夜、持って来てくれる紀子さんは、びっくりするほど綺麗にしていて、上機嫌。

――ま、いいわ、私には関係ないしね。

そんな風に、私はすっかり、この奇妙な「アルバイト」に慣れ、ワンちゃんとのひと時を楽しんでもいた。

ところがある日、アクシデントが起きてしまう。