作家・ライターとして、多くの20代~40代の男女に「現代の男女が抱える問題」について取材をしてきた佐野倫子。その赤裸々な声は、まさに「事実は小説より奇なり」。社会も価値観も変化していく現代の夫婦問題を浮き彫りにします。

今回お話を伺うのは、結婚生活15年の博己さん(仮名・45)。これまで1度として、本気で離婚を考えるほどのトラブルはなく、平穏な結婚生活だったといいます。

ところが2023年、1人息子が6年生になり、突如として離婚を考えるようになったというのです。

原因は、中学受験のために妻の由梨さん(仮名・43歳)が、博己さんから見て「狂気」を発動したことでした。

 
取材者プロフィール
博己さん(仮名):45歳、上場企業のサラリーマン。役職は課長。都内在住。
由梨さん(仮名):43歳、派遣社員。
壮馬くん(仮名):12歳、小学6年生。2024年2月都内私立中学を受験予定。
 


白熱する東京の中学受験に翻弄される夫婦関係


「最近、X(旧Twitter)で『学校別SO』『最後の合不合』っていうワードがトレンドに入っていたんです。2年前の僕ならば『なんのこと?』という状態でしたが、今年は一目みただけで心臓がどきどきするほど。

ちなみにこれは中学受験生が受験する模試の略称です。小学生の模試名がトレンドに入るほど市民権を得ていることにまず驚きました。そんなに受験人口がいるのか!? って。

まあそれは置いておいて、僕の心臓が痛むのはなにも模試の結果が怖いからじゃありません。それを見た妻の発狂した様子を思い出すからです」

文京区の落ち着いた街並みにある喫茶店で肩を落とす博己さん。取材に応じてくださったのは、おそらく誰かに悩みを吐き出したい気持ちがあるはず。そう考えて、まずはご夫妻の状況をじっくり伺いました。

博己さんと妻の由梨さんは職場結婚ののち、息子の壮馬くんの誕生を機会に由梨さんは専業主婦に。小学校1年生になったタイミングで、派遣社員として働き始めたといいます。

10年ほどまえ、まだ都心のマンションがこれほど高騰する前に購入した中古のマンションは、駅から15分ほど歩くものの人気の文京区。博己さんいわく「今ではとても手が届かない」金額に高騰しているそうで、壮馬くんの幼稚園や小学校の友達のご家庭は高所得な方が多く、少々引け目を感じるほどだと言います。

「小学校に入ると、このエリアには高所得なご家庭が多いものの派手さはなくて、いいところに住めて僕たちは幸運だと感謝していました。ローンは月に14万円、楽ではありませんが、妻も派遣で働いてくれているし、子どもは1人。なんとかなるだろうと気楽に構えていたんです。

でも、息子が成長するにつれて気づいたんです。このあたりの子育て世帯は、服や旅行や外食じゃなくて、教育費にフルベットしているということに」