ぽつんと取り残された母親の寂しさに浸るのもいいなと思う

——mi-molletの読者にも、親が亡くなってしまったり、子どもが独り立ちして自分の人生を見つめ直している人が多いと思います。今後、内田さんはもう少し自分勝手に生きてみたいと思いますか?

内田:そのように自分を鼓舞している部分がありますね。私は両親や今回の本で出会った人たちみたいに、一人で立って歩くことができていない未熟者なので……。子どもが3人いて2人はもう成人していて、もはや呼びかけても2週間後にやっと返事がくるような感じで、寂しい母親の気持ちを味わっています。末っ子も思春期を迎えて、どんどん外の世界に向かって飛び出していきたい年頃。母親としては家庭にぽつんと取り残されている実感があるのですが、でも、一回、その寂しさに浸るのもいいなって思うんですよ。よく母が「みんな人は生まれてきて死んでいくまでひとりぼっちだ」と言っていました。だからこそ、今、横を向いたら一緒に歩いてる人と出会えたことが一層愛おしく思えるんだと。でも、基本は一人なんだということを言い聞かせられてきた反動で、群れたいとか人に甘えたいという感情が今でもあって、葛藤しているんです。

 

——内田さんは結婚や出産も早くに経験されていますし、人生が濃いですよね。

内田:いろんなことが凝縮されていて、早死にするんじゃないかと思うくらいです。人生が早巻きでちょっとゾッとするところはあるんですけど、これも内田家らしい気もしていて。とにかく嵐のように事件が起きる。計算はしてないけれど、両親ともに、衰弱した時間が短いまま、すぐ亡くなってしまったんですね。本当に二人らしいというか、人生をフルに生き尽くして、パタッと去っていった。生きている間は二人がやることで心が痛んだこともあったけど、最後は子孝行をしてくれたの? と感じずにはいられませんでした。思い返すと、母が弱った頃によく私はグチっていたんです、「お父さんを残されてもどうすればいいか分からないよ」って。母は、「大丈夫、私が必ず連れて行くから」って言っていて(笑)。実際に半年で連れていってくれて……寂しいけれど、ありがとうという気持ちもありますね。

そんなことを考えていると、私の空っぽは、両親が最後の、そして最良の置き土産として残してくれたのかもしれないと思いました。今回の本では空っぽを満たす旅に出たつもりでしたが、むしろ人と出会う度に、ブランクをもつことの豊潤さを教わりました。これからも、急ぐことなく、大切なものを失った寂しさと、そもそもの出会えた幸福をじっと見つめていきたいと思います。

 


インタビュー前編
内田也哉子「目の前で起きた“死”に向き合いすぎていた」両親を亡くした喪失感がもたらしたもの〈前編〉>>
 

 

 

 

<新刊紹介>
『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』

著・内田也哉子
¥1780(税込)
文藝春秋

母・樹木希林と父・内田裕也を たてつづけに喪った。 虚しさ、混乱、放心状態、ブラックホール……。 「人生の核心的登場人物を失い空っぽになった私は 人と出会いたい、と切望した」。谷川俊太郎、小泉今日子、中野信子、養老孟司、鏡リュウジ、坂本龍一、桐島かれん、石内 都、ヤマザキマリ、是枝裕和、窪島誠一郎、伊藤比呂美、横尾忠則、マツコ・デラックス、シャルロット・ゲンズブール。独りで歩き出す背中をそっと押す、15人との〈一対一の対話〉を収録。

撮影/田上浩一
取材・文/浅原聡
構成/坂口彩