青森から東京へ。時代の空気と世の中の理不尽さが感じられるはず

演じ手としても独特のユーモアを漂わせる渡辺さんは、原田さんが描くユーモアを津軽弁で体現し、楽しませてくれます。でも渡辺さんがユーモア以上に共感するのは、棟方が経験する時代の空気、そこはかとなく浮かび上がる世の中の理不尽にもあるようです。例えば。作品に登場する、当時の芸術界をリードした「白樺派」は、貴族院議員の息子・柳宗悦を中心に、武者小路実篤や志賀直哉など学習院のお坊っちゃま学生たちが立ち上げたグループです。一方の棟方は、故郷・青森ではそれなりの実力を認められながらも、東京では木版で「マッチ箱」を手刷りする仕事で糊口をしのぐ生活です。そして棟方が夢に見るゴッホの名画「ひまわり」は白樺派の仲間の家に飾られています。

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渡辺:画壇の中央は東京で、白樺派の連中はみんな金持ちなんですよ。棟方志功が世界的な存在になったのも、白樺派のリーダーの柳宗悦に発見されたから。つまり中央で活躍している人に見過ごされていたら、未だに誰にも知られていないかもしれないんです。演劇人もそうですよ。築地小劇場(昭和初期の新劇の常設劇場と劇団)の頃は、貴族とか金持ちの子供でなければ役者なんてやっていられなかった。一般庶民の家庭に生まれた人間や、貧しい地方出身者が演劇をやれるようになったのは、実はここ30~40年くらいのことです。

 

だから、棟方による「大和し美し(やまとしうるわし)」という作品が注目を浴びたのは大いなる皮肉です。東北人は「和人」ではないというようなことすら言われ、さまざまな分野で全く相手にされてこなかった時代が、ごく最近まで長く続いていたわけですから。やっと最近、ずば抜けて成功した大谷翔平さんと羽生結弦さんがいらっしゃいますが。