「企業だけでなく、国全体の幸福が重要」

 

オランダの特徴について、本書では「今日のオランダの労働改革と高い生産性を保つ礎となったのは、労働組合と企業(雇用主協会)の協調で社会政策を決めるオランダの政策決定のあり方だ」と指摘。企業側を代表する雇用主協会のニック・バン・ケステレン元会長による、次のような言葉も紹介しています。


「企業は自立して存在しているのではなくて、あくまで社会の一部です。会社は社会的責任を負わなければいけません。従業員が円滑に仕事を進めるためには、病気が少なく、ストレスが少なく、仕事と家庭のよりよいバランスが保たれていることが重要です。そのほうが従業員が能力を発揮でき、最終的に企業の利益につながるのです。そうでなければ人々からの信頼や共感は失われ、社会システムは機能停止してしまいます。オランダのシステムは企業と他の利害関係者との間の協調のうえに成り立っています。企業だけでなく、国全体の幸福が重要です。幸福度は、人々が仕事に対して満足しているのか、十分な稼ぎがあるのか、そして自由な時間があるのか、で左右されます。それが重要なオランダの哲学です

——『中流危機』より

「親の世代より豊かになれない」と感じる現在の日本が、“中流復活”を遂げるために今から何ができるのか——。NHKスペシャル取材班がまとめた本書からは、いくつもの可能性の種が見えてきます。

 

『中流危機』
著者:NHKスペシャル取材班 講談社現代新書 1012円(税込)

バブル崩壊から30年——。日本の所得中間層の中央値は、25年間で約130万円も減少した。貧しくなる中流階層、その閉塞感を打ち破るために、国や企業、労働者は何ができるのか。NHKスペシャル取材班がまとめた、日本の中流再生への足掛かりを探る一冊。


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構成/金澤英恵