ドアの開閉の意味

3日後。くだんの搭乗口で、出発便のハンドリングを担当することになった私は、非常~に微妙な気持ちで仕事をしていた。

――シバタ様、ここに人じゃないモノが立ってるって言ってたよねえ……。確かになあ、このゲート、いわくつきなんだよねえ。それをシバタ様が知ってるとも思えないしなあ。

私は、後輩スタッフの手前、いつも通りせっせと仕事をしながら、内心ちょっとびくびくしていた。実はこのゲート、昔からちょっと怖い噂がある。例えば閉めたはずの扉がいつの間にか開いている、とか、誰かに肩をたたかれて振り返ったても誰もいなかった、とか。

私は何の気配も感じたことがないから、まったく真剣に取り合ったことがなかったけれど。もしかして、このゲートはよくないモノが集まっているとか……?

「恵梨香さん! 聞きました? いたずら電話。さっきまた、かかってきたらしいですよ。今日の午後便のどこか、機内で恐ろしい騒ぎを起こしてやるって。ま、もうこれで3回目ですからね、困らせて嫌がらせしてるだけでしょうけど。本当、こっちがどんな思いでやってるのか知りもしないで、迷惑な話ですよね」

「ええ!? またかかってきたの? 先週のは結局、なにも起らなかったけど……だから今日、セキュリティ余計に慎重なのね、混んでる日じゃないのに列が長かったもの」

5つ下の後輩、佐倉ちゃんも、うんうん、とうなずいた。

「爆発物や危険物、持ち込まれたら機内は密室ですからね。私たちができることも、正直、ないですよねえ」

 

そこまで話したとき、背後で、ガチャン、と鉄の重い扉が閉まる音がした。私たちは飛び上がるほど驚いて、同時に振り返る。

「え!? 今、音、したよね?」

「しました。聞きなれた、あの音……でも、扉はさっき閉まってましたよね!? 長時間開いてたら、アラーム鳴るはずだし。重いから、自重で閉まるのに。オートロックだから一度しまったら解除キーが必要だし」

私と佐倉ちゃんは、顔を見合わせ、それから苦笑いした。

 

「気のせい、気のせい。空耳よね。予告電話で、ナーバスになってるから」

ガチャン。

音がした。私と佐倉ちゃんは、恐る恐る振り返る。解除キーが必要なはずの扉がいつの間にか再び開いて、ゆっくりと、閉まるところだった。

「……ロックシステムが壊れましたね。システム部に連絡、いれますね。これ放っておいたら大変ですから」

佐倉ちゃんが内線電話で一報してくれている間、私はなぜかでくの坊のように動けず、じいっと扉を見ていた。

あの扉のオートロックが壊れていたとして、風で開くような重さじゃない。

私は、3日前にきいた、シバタ様の言葉を反芻していた。

『何か、どうしても伝えたいことがあるのかもしれないけれどね』

次回予告
【後編】果たして奇妙な搭乗口の出来事は何を意味するのか……?

小説/佐野倫子
イラスト/Semo
編集/山本理沙
 

 

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