そしていざ片づけに入ったときのことですが、一つ理解しておいていただきたいことがあります。人が物に執着するのは、その物を残したいからではなく、その物に込められた思いを残したいからなのです。処分をするときは、その思いを1つ1つ受け取っていく、という作業をおこなってほしいと思うのです。私の父は古切手の蒐集が趣味だったのですが、母はそれを捨てることができず中古品買い取りの店に売りに行ったのですね。すると、「こんなもの」といったようなひどい対応をされたそうなのですが、それくらい二束三文のものでも簡単に捨てられないのは、持っていた人の思いが残っているからなのだと思います。たしかに、そのように1つ1つ丁寧に思いを受け取っていると、片付けには時間がかかります。だから焦らず、ゆっくり片づけることになりますが、でもそれは、親や自分の将来にも役立つことになるはずです。
そうやって丁寧に片づけていると、親が自分の人生において何を大事にしているか、残りの人生をどう生きていきたいと思っているのかが見えてくる、ということがあります。そうすると、もし親が認知症を発症して意思を確認するのが困難になったときも、親の希望を汲み取ってあげることができるかもしれません。親が何を考えているのかまったくわからない、ということにはならないと思います。
片付けというと、どうしても物そのものにだけ意識がいきがちですが、物に込められている思いをきちんと見ないと、片付けは上手くできません。bamvil315さんなら、ご主人の実家の土地に対して代々受け継がれているその思いを見ないと……。そこを見ず、「もういらないわよね」とやってしまうと、それは「嫁が人の気も知らないで!」となってしまいます。合理的であること、効率的であることは仕事では大切ですが、プライベートでは感情的な部分も大事にすることが必要です。「早く片づけないと」と焦る気持ちは分かりますが、これは仕事ではありませんから、どうか急ぎすぎないでくださいね。
一方で、今やほぼ自分の物しか残っていない私からしますと、それゆえの空虚感もある、ということもお伝えしておきたいと思います。物がいっぱいあるから人生を実感できている、という部分は少なからずありますから。人の物が何もなく、24時間365日すべての時間を自分のためだけに使って良いという状態も、案外戸惑うものです。結局人って、「愛を与えてなんぼ」なのだと思うのです。その愛の残骸が物に残されている。だから人は、先祖代々受け継いでいくということをするのだと思います。片付けを始めるにあたって、そういったことも一度考えてみていただけると嬉しく思います。
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- 金子稚子(かねこわかこ)1967年生まれ。終活ジャーナリスト。終活ナビゲーター。一般社団法人日本医療コーディネーター協会顧問。雑誌、書籍の編集者、広告制作ディレクターの経験を生かし、死の前後に関わるあらゆる情報提供やサポートをおこなう「ライフ・ターミナル・ネットワーク」という活動を創設、代表を務めている。また、医療関係や宗教関係、葬儀関係、生命保険などの各種団体・企業や一般向けにも研修や講演活動もおこなっている。2012年に他界した流通ジャーナリストの金子哲雄氏の妻であり、著書に『金子哲雄の妻の生き方~夫を看取った500日』(小学館文庫)、『死後のプロデュース』(PHP新書)、『アクティブ・エンディング 大人の「終活」新作法』(河出書房新社)など。編集・執筆協力に『大人のおしゃれ手帖特別編集 親の看取り』(宝島社)がある。 この人の回答一覧を見る
- 山本 奈緒子1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。 この人の回答一覧を見る
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