不安と焦りの20〜30代。40代は、いい意味で余裕を持ちたい


妻夫木さんが出演したラブストーリーを紐解いていくと、どちらかと言うと女性に翻弄されながらも一途に想う姿が印象的。本作のようなミステリアスな“オム・ファタール”は新鮮でもありました。

「自分もそういう役柄を求められるようになったんだと思うとうれしいです。30代は特に、主役じゃない脇役で作品を支える力を身につけられたらという思いがあったので」

その等身大のイメージから『ウォーターボーイズ』、『オレンジデイズ』など悩める主人公がぴたりとハマった20代。『小さいおうち』、『渇き。』、『殿、利息でござる!』などバイプレイヤーとしての魅力も開花させた30代。着実なステップを経て、妻夫木さんは今年40歳を迎えます。

「20代、30代のうちはどこか不安とか焦りがあった。40代になることで、もう少しいい意味での余裕が持てればいいなと。冷静にいろんなことを判断できる力みたいなものが必要になってくる気がします」

何一つ将来が保証されているわけではないのが、俳優業の難しさ。新しいスターが続々と現れ、比較や競争にさらされる世界です。妻夫木さん自身も「いつも嫉妬はしていますよ」と明かします。

「僕にないものを持っている人を見ていいなと思うことはいっぱいある。欲深い人間なんで、いろんなものを手に入れたくなってしまうんです。でもこれからは新たな何かを身につけることも大事だけど、それよりも自分自身が潜在的に持っている何かを引き出すことを心がけていきたいし、自分自身を受け入れて、今の自分自身にあるもので勝負していけたらなという気持ちがあります」

 

自分自身を「欲深い人間なんで」とさらりと認められる正直さが、妻夫木さんの魅力のひとつ。年齢を重ねることで、そんな欲も変化していると語ります。

「どんどん求めることがシンプルになるというか。昔は何でもかんでもほしがっていたけど、大人になるにつれて本当にほしいものが何かわかっていくところはあるかもしれない。今、僕がほしいのは信用。信じ合えることってなかなか難しいからこそ、やっぱり必要とされたいし、信じてもらえることが僕にとっての救いになっています」

 


大人ほど大人が何かはわからない


この『Red』も大人の恋愛映画。大人の寂しさや孤独が通奏低音のように横たわっています。

「子どもの頃に許されていたことが大人になると許されなくなって。いろんなルールの中で我慢したり、自分に嘘をついてしまうことってあると思うんです。そう考えると、大人になることって実は“逃げ”なのかもしれない。この映画の中で最後に塔子が出した答えは、世間的には“逃げ”かもしれないですけど、彼女にとっては“決断”だった。“大人になる”って難しいなって思います」

長年出演し続けているサッポロビールのCMでもおなじみ「大人ってなんだ?」の定義。今年40歳を迎える妻夫木さんはこの質問にどう答えるでしょうか。

「大人っていう言葉をわかる人はいないと思います。リリー・フランキーさんが言っていましたけど、『大人とは、子どもの想像の産物』というのが、いちばんしっくり来るというか。大人ほど大人が何かわからない。子どもの方が大人とは何かをよくわかっている気がします」

俳優という特殊な職業でありながら、どこか私たちに身近な存在であり続けた妻夫木さん。多くの人が、妻夫木さんが年齢を重ねていくさまを親しみを持って見守り続けてきたように思います。そんな妻夫木さんが本作で開いた新しい大人の扉。ここからまたどんな40代の妻夫木聡を見せてくれるのか楽しみで仕方ありません。

 

<映画情報>
『Red』

 

エリートの夫、可愛い娘とともに、一見、誰もがうらやむような暮らしを送っていた塔子。しかしかつての恋人・鞍田と再会したことで、これまでずっと自分を押し殺していたことに気付き……。直木賞作家・島本理生による賛否を呼んだ問題作をオリジナルのラストで映画化。監督は三島有紀子、出演に夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗ほか。2月21日(金)より新宿バルト9ほか全国公開。
©2020『Red』製作委員会

撮影/中垣美沙
スタイリング/TAKAFUMI KAWASAKI(MILD)
ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.)
取材・文/横川良明
構成/山崎 恵

 

 
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