そんなアクロバティック集団のトップに立つのが、スモーキーです。重めの前髪に隠した光のない瞳。ざっくりと開いた胸元から覗く、盛り上がった鎖骨と血管の浮き出た首筋。口数は少なく、ほとんど起伏のない淡々とした口調。まずこの基本設定からしてオタク泣かせ。

いつも廃工場のてっぺんで物憂げに空を見つめ、けれど戦闘能力は全キャラクターの中でもトップクラス。敵の側頭骨を叩き割るハイキックをぶちかましたあとも、涼しい顔でモッズコートの乱れを整え、時には余裕の笑みさえこぼします。

普段は温度の低い眼差しが、家族のためなら正義と闘志の炎で燃え、『THE MOVIE』で炎上する無名街の中から立ち上がる光景なんて神々しすぎて画力がもはやレオナルド・ダ・ヴィンチ。しかもこれだけ強いのに、その身は病に蝕まれ、戦闘時間にタイムリミットがあるとか、設定が完全にオタク仕様。『幽☆遊☆白書』で飛影を選んだ女子は、すべからくスモーキーに落ちると思う。

またそれを異次元の才能を持つ窪田正孝が、抜群のボディコントロールによって支えられたアクションと、スモーキーの内包する愛と正義がガンガン伝わってくる生身感たっぷりの演技で見せてくれるので、フィクションの臨界点を軽く突破。この世のどこかにスモーキーが存在しているとしか思えなくなる。

スモーキーの背負った運命を思うと、今も胸が苦しくなりますが、スモーキーを知らなかった人生にはもう戻れない。壊れそうな瞳とかJ-POPの歌詞でしか見かけたことなかったけど、あなたのことだったのね、スモーキー。これからは街角でモッズコートを見かけるたびに、あなたの名を呼ぶ余生を送ります。

来世では窪田正孝に「嫁さん」と呼ばれる人生を送りたい


ということで、新しい推しができたことにより、僕の毎日は一変。退屈な自粛期間もひたすらスモーキーの登場シーンをリピートし続けるだけで1日が終了。何かと気の沈みやすい時期ですが、スモーキーのことを考えていれば、つかの間不安を忘れることができました。

自粛生活では新たな推し=生きる燃料。朝ドラ俳優・窪田正孝の底知れぬ魅力_img0
 

そして改めて実感するわけです。どんな状況でも楽しみを見つけ出すこのオタクの強欲さこそが、生きる上でそこそこ必要な能力なんじゃないかと。人間なんてそう強くありませんから、自家発電だけじゃ生きてはいけない。エネルギーが切れかかったとき、必要なのは、自分を燃えたぎらせてくれる何かです。

 

新たな推しを見つけるということは、生きる燃料を手に入れるということ。推しの数だけ、幸せがあるのです。日本は一夫一妻制ですが、ありがたいことに推しは何人いても罰則もなければ税金もかかりません。特にこんな閉塞的な時代だからこそ、タンクにガンガン燃料を注入して、楽しいことめがけて爆走したい。ヘコんでいる暇があるなら、まだ見ぬ推しとの出会いを求めて、沼に全力でダイブする。それが、僕の見つけた最高のおうち時間の過ごし方です。

とりあえず今は窪田正孝のことを思うだけで気持ちはハッピーなわけですが、先日配信されたインスタライブで、窪田正孝が水川あさみのことを「嫁さん」と呼んでいるのを見て、来世こそは窪田正孝に「嫁さん」と呼ばれる人生を送りたいと固く決意した次第。今週から朝ドラ『エール』に本格出演なので、しばらく朝8時はテレビの前という生活になりそうです。この沼、想像以上に深そうだぜ……(満面の笑顔を浮かべて)。

前回記事「ドラマ『恋つづ』から考える、推しのラブシーン問題」はこちら>>

「推しが好きだと叫びたい」連載一覧
第1回:あの日“推し”に出逢って、僕の人生は変わった
第2回:荒みがちな心を癒すのは“推しのいる生活”
第3回:ドラマ『恋つづ』から考える、推しのラブシーン問題
第4回:自粛生活では新たな推し=生きる燃料。朝ドラ俳優・窪田正孝の底知れぬ魅力
第5回:こじらせてると解ってる、でも言いたい「推しに認知されたくないオタク」の本音
第6回:「推しの顔が好きすぎて語彙力死ぬ」問題をライターの僕が本気で考えてみた【ライター横川良明】
第7回:やっぱり顔が好き!顔から推しに堕ちたオタクを待つさらなる落とし穴【ライター横川良明】
第8回:SNSで話題の史上最強沼・タイBLドラマ『2gether』の素晴らしさを語らせてくれ
第9回:ナイナイ岡村の炎上騒動から考える「長く愛される推し」に必要なモノ2つ
第10回:転機は高橋一生だった。推しの肌色面積問題、着てる方が好きなオタクの意見
第11回:オタクの心の浄化槽。男子の“わちゃわちゃ”が今の時代に求められる理由
第12回:推しが好きだと叫んだら、生きるのがラクになった僕の話

 
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