“顔が好みじゃない推し”とは、レベル1で対決するゾーマのようなもの


ところが、そんな“顔が好みの推し”よりも、さらに恐ろしい落とし穴がいます。それが、“顔は好みじゃないのに好きで好きでしょうがない”というタイプの推しです。

 

この手の推しに出会ってしまった場合、それはもうレベル1でアリアハンを出発したら最初の敵がいきなりゾーマだったぐらいに思うしかない。こっちはひのきのぼう1本だっていうのに、向こうはこごえるふぶきとか容赦なく使ってくる。(※編集部注:ドラクエです)

顔が好みというのは、ある意味理屈で説明できるから、まだなんとかなります。しかし、全然好みの顔じゃないのに好きっていうのは、ルールがわからない分、余計に始末が悪い。名前も知ってたし、存在も知ってた。でも特になんとも思わなかった人のことを、ある日、何か魔法がかかったように好きになってしまう。自分でもなんでこんなに惹きつけられるのか全然わからないし、わからないからこそ答えを知りたくて余計に目で追ってしまう。

やっぱり顔が好き!顔から推しに堕ちたオタクを待つさらなる落とし穴【ライター横川良明】_img0
 

一重の男の子とか全然好きじゃなかったのにとか。バタ臭い顔は苦手だったのにとか。これまでの経験則を当てはめて、こんなはずはないと自分で自分に言い聞かせてみるのだけど、「好きなはずがない」という理由を並べれば並べるほど、言い逃れが効かなくなって、最後にこう気づくのです、途方もなくただ好きだということを。

“顔が好みの推し”が六法全書なら、“顔が好みじゃない推し”は破戒の禁書。“顔が好みの推し”がペロペロ舐めてくる可愛い子犬なら、“顔が好みじゃない推し”は突然ぷいっといなくなる気まぐれな子猫。手を出したら負けだし、絶対自分のルール下になんておさまらない。しかも眺めていけば眺めていくほどに、好みじゃなかったはずの顔にまでいとしさがこみ上げてくるから、この気持ち、aikoあたりが歌にしてほしい。

ハマった理由がわからないんだから、当然抜け方だってわかりません。それが、“顔が好みじゃない推し”の恐ろしさ。しかも、突きつめていけば、パーソナリティだったり演技力だったり、経年に影響を受けないポータブルスキルに惹かれているわけだから、この先多少老いようが心が離れる理由にはならない。つまりそこはもはや幸福な地獄。ときめきの釜湯で一生半身浴をするようなものです。

どんなに推し卒をしようとしても、顔を見た瞬間、「やっぱりこの人がいちばん……!」と天を仰いでしまう“顔が好みの推し“と、「全然タイプじゃないんだから!」って自分で自分に言い訳しながらいそいそ財布を開いてしまう“顔が好みじゃない推し”。どっちに転んでも行き着く先は底なし沼だから、推しとはかくも罪深い生き物なのです。
 

前回記事「「推しの顔が好きすぎて語彙力死ぬ」問題をライターの僕が本気で考えてみた」はこちら>>

「推しが好きだと叫びたい」連載一覧
第1回:あの日“推し”に出逢って、僕の人生は変わった
第2回:荒みがちな心を癒すのは“推しのいる生活”
第3回:ドラマ『恋つづ』から考える、推しのラブシーン問題
第4回:自粛生活では新たな推し=生きる燃料。朝ドラ俳優・窪田正孝の底知れぬ魅力
第5回:こじらせてると解ってる、でも言いたい「推しに認知されたくないオタク」の本音
第6回:「推しの顔が好きすぎて語彙力死ぬ」問題をライターの僕が本気で考えてみた【ライター横川良明】
第7回:やっぱり顔が好き!顔から推しに堕ちたオタクを待つさらなる落とし穴【ライター横川良明】
第8回:SNSで話題の史上最強沼・タイBLドラマ『2gether』の素晴らしさを語らせてくれ
第9回:ナイナイ岡村の炎上騒動から考える「長く愛される推し」に必要なモノ2つ
第10回:転機は高橋一生だった。推しの肌色面積問題、着てる方が好きなオタクの意見
第11回:オタクの心の浄化槽。男子の“わちゃわちゃ”が今の時代に求められる理由
第12回:推しが好きだと叫んだら、生きるのがラクになった僕の話

 
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