現実にできない嘘は、自分を苦しめるだけ 


一方、どう頑張っても現実にできない嘘はドサンを苦しめ続けます。

実は数学オリンピックで、解けなかった1問をカンニングしていたドサン。そのたった1問を盗み見た後ろ暗さのせいで、その後の人生もずっと自分に自信を持てないまま生きる羽目になりました。

それなのに大人になって再び、ドサンはついてはいけない嘘をついてしまった。

過去を塗り替えることなどできないのに、ダルミの前で「文通していたドサン」だと自分を偽り続けたのです。

その結果、本物のドサン(ジピョン)に対しての劣等感が消えず、ダルミとの距離が近づけば近づくほど偽物の自分に苦しむことに……。

成長につながる見栄と、人も自分も傷つける嘘。どちらも虚偽ではあるのですが、その功罪の描き方が秀逸ですんなり腑に落ちてきます。
 

新時代の恋愛観?女性はもう守られることを求めてない


ドサンを「文通していた初恋の相手」だと信じ続けるダルミ、彼女が好きなのは本当の自分じゃないことに苦しむドサン、そしてダルミに惹かれる気持ちに気が付きつつも自分が文通相手だったと白状できないジピョン。

この複雑な三角関係も『スタートアップ』の見どころの一つで、新エピソードが公開されるたびにTwitterでジピョン派VSドサン派の争いが起きていました(笑)。

Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中

ジピョンは10代の頃から投資の才覚があって巨万の富を築いており、漢江沿いに建つリバービューのマンションで優雅な暮らしをしています。ベンチャーキャピタルのチーム長であり、サンドボックスのメンターとしてダルミやドサンに厳しくも的確なアドバイスをくれる存在でもあります。

 

ただジピョンのダルミに対するアプローチは、どこか前時代的な接し方のように感じられました。

豊富な経験からチャレンジを「無謀だ」と諦めさせようとしたり、失敗しても自分が投資するから安心しろと言ったり祖母の店に出資させてほしいと申し出たり。トラブルを資金力で解決しようとするのです。もちろん正論だし、ありがたい話ではあるのですが……。

少し前ならば違和感を覚えることもなく、圧倒的に頼れるスマート紳士・ジピョンに惹かれていくのが既定路線だったように思います。

ところがドラマの展開的にも視聴者人気も、経済力も社会的立場も劣る不器用なドサンが優勢だったのは新鮮でした。

Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中

ドサンは典型的な理系男子で女性慣れもしておらずスマートとは真逆の男です。コーディングの天才ではありますが、そのほかの分野はまるでダメ。紳士的な振る舞いもできません。

しかしドサンは常にダルミの意見や考えを尊重します。無茶に思える挑戦でも「やってみよう」と言ってくれる。

リスクや失敗を避けるため常に先回りしてダルミを守ろうとするのがジピョンだとしたら、ダルミの夢や理想を実現するべく隣で一緒に戦ってくれるのがドサンです。

女性はもう守られて生きるほど弱くない。

新時代には男だから女だからではなく、能力で役割分担する、対等な関係性が求められています。そういう時代に即したパートナーシップが描かれている点も非常に興味深い作品でした。

痛快なサクセスストーリーでもありラブコメでもあり、はたまたハートウォーミングな家族愛のドラマでもある。

『スタートアップ』は、すでに韓国ドラマ沼にハマっている方も、まだ食わず嫌いをしているという方にもぜひお勧めしたい、次に見るべき一作です。
 

文/安本由佳
この記事は2020年12月31日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。