乳がん患者の約1割が「トリプルネガティブタイプ」


コロナ禍で定期検診を受けられない、という方もいらっしゃるかと思いますが、通常の検診は2年に1回でも問題ありません。それだけでも死亡率減少効果があります。ルミナールタイプの乳がんはゆっくり育つことが多いので、1年間検診を受けず、その後乳がんが見つかったとしても、治療自体が極端に変わるものではありません。ただし、がんのタイプの4番目に紹介した「トリプルネガティブタイプ」は例外です。

 

トリプルネガティブは遺伝性乳がんの方に多く、3~4ヵ月前にはなかったしこりが急にできるなど、がんの進行速度がとても早いのが特徴です。2017年に乳がんで亡くなったフリーアナウンサーの小林麻央さんも、この「トリプルネガティブタイプ」でした。年1回や、数ヵ月に1回の検診では早い段階で発見することが困難で、またトリプルネガティブの乳がんだとわかったら直ちに治療を開始する必要があります。

トリプルネガティブに罹患する確率は、乳がん患者さんの1割弱程度と決して高くはありませんが、定期検診による早期発見がしにくいという難しさがあります。ですから、日頃から乳房の異常を察知する“ブレスト・アウェアネス”の意識がとても大切になります。

 


乳がんの治療の歴史を変えた「ハーセプチン」


実は少し前まで、がんタイプの3番目で紹介した「HER2(ハーツー)タイプ」も、乳がんの中では死亡率が非常に高いがんとされていました。ですが、約15年前に「ハーセプチン」という特効薬が開発されて、治療成績が劇的に上がったんです。ハーセプチンの開発秘話は『希望のちから』という映画にもなったほどで、まさに乳がん治療の歴史を変えるようなすごい出来事でした。

映画『希望のちから』(2008年)。人気俳優のレネー・ゼルウィガーが製作総指揮をとったことでも話題に。

 

乳がん治療を5年、10年と続けることはたやすいことではありません。それでも頑張り続けることで、ハーセプチンのような新たな薬が開発される可能性はあるのです。乳腺外科医としては、どんなステージ、どんなタイプのがんであっても、治るという希望だけは捨てないでいただきたいとお伝えしたいです。

緒方晴樹 Haruki Ogata

目白乳腺クリニック院長。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。20年以上にわたり乳腺外科を専門とする。東京逓信病院では乳腺センター立ち上げに尽力、センター長として多くの乳がん患者の治療にあたった。2019年2月、女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、目白乳腺クリニックを開院。


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

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